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連続小説

ラッキー

僕にとってアコは特別な存在だった。
彼女を購入したきっかけこそ些細な理由、というかほぼ勢いという感じだったが、アコを迎えて毎日一緒に寝起きし何度も身体を重ね身支度などの世話をしていれば愛着も湧く。
多くの人から見ればアコはただの人形だが、僕にとってはもうずいぶん前から生活の一部であり他の何にも変えられない存在なのだ。
そんな彼女が危機に晒されれば怒りも湧くだろう。
僕の怒りは正当なものだと思う。
自分の大切な人が知らないうちにどうにかされてしまったら、それが原因で危害が及ぶとしたら、そりゃ怒るだろう。
しかし冷静になってみれば、これはやはりとてつもないラッキーなのだ。
僕は溜まった嫌な気持ちをため息とともに吐き出した。
横には相変わらず困り顔のアコが居る。
人形のアコに不満があったわけではないが、やはりこうなったことは嬉しい。
色々な表情が見られて、反応が返ってきて、ご飯を作ってくれて。
理想のままの生活がそこにあったのだ。
まぁ、外には出られなかったが。
さっきはよくない想像で取り乱してしまったが、まだアコが宇宙人のような体になると決まったわけではない。
きっと何かがあるはずだ。
大丈夫、もう落ち着いた。


「ああ、そうだ。
アコの身体はあんたみたいにはならないんだな?
それならなぜそうならないのか、あんたとは何か違うのか、この先もそうはならないのか、
詳しく知りたい」


僕がそう言うと、宇宙人はふむと頷いた。
僕はもう大丈夫と横にいるアコの頭を撫でる。
アコは心底ほっとした様子で、ようやくゴミ箱を床に下ろした。
宇宙人は僕の心情など気にした様子はなく、せわしなく洗面所を見回して一言。


「ここ、なんだか臭いますね。
戻ってからお話しましょう」


と言った。
先ほどの吐瀉物のせいか或いは生乾きの洗濯物の臭いか、そもそも脱衣所を兼ねた洗面所というものは湿気が籠ってかび臭いというか独特の臭いがするものだと思う。
しかしそう他人に言われるとなぜか妙に気になってしまうものだ。
一応アコが掃除をしてくれたおかげで一見綺麗ではあるのだが、臭いというものはそう簡単にとれるものでもないのだろう。


「そうですね。
いつまでも洗面所でお話しているのもなんですし、ここは私が片付けておきますからご主人様と宇宙人さんは先に居間に戻ってお話ししていてください。
少し時間が掛かると思いますので、私のことは気にしないでください」


にっこりと笑顔を浮かべたアコが唐突に口を開く。
いい笑顔なのだが、その表情はどこか作られたもののようだった。
恐らく臭うと言われたことでお掃除心に火が付いたのだろう。
小さく鼻を小刻みに動かしながら横目でちらりちらりと隙間や隅を気にしているのがわかる。
僕的にはまぁ仕方ないかな洗面所だしと言った気持ちだったのだが、この家の家事担当に就任したアコにとっては聞き捨てならないことだったようだ。

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