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連続小説

あの、ご主人様

そんなこんなで、僕らはなんとか和室に布団を敷くスペースを確保することに成功した。
代わりに居間が若干狭くなったが、そのうち片付けるから今はまあ良しとする。


「さて、あとは布団を出すだけだな」


久しぶりに全貌が見えた押入れの前で、僕は一度大きく伸びをした。
肩の関節から小気味よい音がする。
ほんの少し、疲労感が薄れた気がした。
短時間での作業だったがデスクワークが主である僕にとっては重労働で、アコの手前疲れたとかしんどいとかはかっこ悪いから言わないが、実際のところかなり疲れていた。
ここから布団を引っ張り出すなんて考えただけでも面倒だった。
できたら一度休憩を挟みたいところだ。


「あの、ご主人様」


意を決し押入れを開けようと手を掛けた所で、僕の一歩後ろに居たアコに呼ばれ、手を止めて振り返った。


「どうした?」

「はい、あの、そろそろお夕飯の時間ですし、お布団は私が出しておくので、何か食べるものを買ってきては如何でしょう?」


そう言ってアコは時計を指差す。
時刻は18時を半分過ぎた所だった。
そう言えば、片付けをしている最中に遠くの方で夕方を知らせる放送が流れていたっけ。


「もうこんな時間だったかあ。
そうだね、何か買いに行こうか」


意識すると突然空腹感が僕を襲った。
色々と衝撃的なことがあって忘れていたが、今日は昼も食べていないのだ。
よくここまで気が付かなかったものだ。
もしかしたら朝の塩握りのおかげかもしれない。


「ええっと、出来合いの物でいいん・・・だよな?
材料とかの方が良かったりする?」

「そうですね・・・
できたらお料理したいですけど、でも帰って来てから作ると遅くなっちゃいますから、出来合いの物がいいと思います。
あ、外食はどうですか?
ご主人様、何も食べてないからお腹空いてますよね」

「そうだなぁ・・・」


確かに腹は減っている。
外食なら空腹を我慢するのは行きだけで済むし、それは魅力的な提案ではある。
しかしそうなると、出来合いの物を買って帰ってくるよりも長時間家を空けることになってしまうのだ。
今日はそもそもアコと出かける予定だった。
どうしようもない理由でそれが適わなかったとはいえ、僕だけ外で食事してきていいものだろうか。
行くとしても安くて早く済むファーストフードか牛丼屋になるだろうから、そんな特別な物でもないし色気もないのだが、それでもアコをここに残して僕一人外食するのは申し訳ない気がした。


「コンビニで弁当でも買って、すぐ帰ってくるよ」

「わかりました。
では、ここは私に任せてください!
ご主人様が帰ってくるまでに、しっかりお布団の準備をしておきますから!」


アコは自信有り気な顔で僕と入れ替わるように前に出ると、押入れに手を掛けた。

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