安心感
アコと他愛のない会話をしながらの食事は楽しいものだった。
彼女の表情は終始朗らかで、話もよく聞いてくれた。
かといって一方的にこちらが話し続けるのではなく合間合間にいい感じで質問や感想を挟んでくれる。
あまり話をするのが得意ではない僕だがそれがとても心地よく、珍しく自分のことをたくさん話してしまった。
普段からアコにはいろいろと話してきたが、反応があるというのはまた違うものがある。
おそらくアコが普通の人形だった時に聞かせた話もあっただろうが、彼女は文句ひとつ言わずニコニコしながら聞いてくれたのだ。
山盛りの白飯は半分を過ぎたくらいから苦しくなり、後半はもはや地獄だった。
だが、用意してくれた上に話を聞いてくれるアコの手前残すわけにもいかず、最後は気合いと水分で流し込んだ。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした!」
僕に合わせて声をかけてくれるアコ。
こういったちょっとした事が何故だか無性に嬉しい。
一人暮らしが長いからだろうか、アコがしてくれるからだろうか。
どちらもあるのだろう。
僕が手を出す間もなく、アコはてきぱきと食器を流し台に運び洗い始めた。
命令したわけでも教えてわけでもないのに彼女はそれが当然であるかのように僕の世話を焼いてくれる。
そういえば朝もそうだった。
ラブドールがひとりでに動き出すというインパクトのせいで忘れていたが、朝もアコはご飯を用意してくれていたのではなかっただろうか。
部屋のことだってそうだ。
あの惨状を一日でここまで片付けるのは骨が折れただろう。
僕は大事なアコの体に傷や汚れがないか心配になった。
アコは大事なドールだ。
意を決して購入し、大事に大事に扱ってきた。
それゆえ、アコを寝室から出したことはない。
リビングの有様からは想像がつかないだろうが、寝室はわりときれいにしているのだ。
まぁ、ベッドとクローゼットしかなく他に物が少ないからというものあるが。
僕は無性にアコの体をくまなく調べたくなった。
「なぁアコ。
掃除しててなにか変わったことはなかったか?」
まずは遠回しに様子を探ることにする。
「変わったことですか?
うーん、そうですね・・・あんなに汚かったのは変わっていると思いますけど」
洗い物をしながらくすくすと笑うアコ。
それが皮肉だとはわかっているが、僕は返す言葉もない。
実際ひどく散らかしたのは僕なのだから。
なぜかこんな物言いをされることも嬉しいと思ってしまう。
なんだか仲の良い兄妹のような、友達のような、恋人のような、そんな感じがするからだ。
ドールであるアコと話すのはこんなことになってしまった今日が初めてなのだが、ずっとこんな感じで一緒に居たような安心感があった。