さよならアコ

大丈夫だよ

僕が説明をする間、宇宙人の彼女は頭を傾けたまま微動もしなかった。
僕は話しながら、ちゃんと聞いてくれているのだろうかと様子を見ていたが、それも途中で辞めた。
何故なら彼女が奇妙を通り越して怖かったのである。
無表情のまま頭を傾け、よく見ると瞬きもしていないその様子はさながら生首だった。
いや、見ようによっては生首よりも気持ち悪いかもしれない。
生首なんて見たことはないけれど、おそらく彼女よりは生き生きして見えるんじゃないだろうか。
なんというか、彼女には生気がないのだ。
もしかしたら表情というのは人間らしさの象徴のようなものなのかもしれない。
糸の切れたマリオネットや能面、見たことないけど死体なんかを嫌悪する感覚に似ている。
彼女から得体のしれない気持ち悪さを感じてしまうのは人間としての生理現象なのだろう。
僕はふと横を見る。
そこには真剣な表情で時折僕の説明に頷くアコがいる。
目の前にいる宇宙人に対して人形であるアコはなんて明朗で生き生きして温かみのあることだろう。
そこにいるだけで和んでしまうなぁ。かわいいなぁアコは。


「と、言うわけなんですよ」


そんなこんなで僕の宇宙テクノロジーが世間に露呈した場合に考えられる可能性の説明は締めくくられた。
謎の組織など多少大袈裟な部分もあったが言いたいことは伝わったと思う。
これ以上言うことがない僕は彼女を見たが、動く気配はなかった。
相変わらず半開きの目がこちらをじーっと凝視したまま首を傾げている。
ひとつ変化があるとすれば、頭上の発光体がさっきからちかちかと点滅しながら低く唸るような音を発していることだ。
まるで宇宙人女の代わりに思考しているようだった。
僕が彼女と発光体を観察していると、不意に服の裾を引っ張られた。


「おお?どうした?」


引っ張られた方に目をやると、アコが不安げな眼差しで僕を見ていた。
震える手でぎゅっと縋る様に僕の服を掴んでいる。
そうだ、アコも今の説明を聞いていたのだ。


「ご主人様と離れるなんて、いやです・・・!」


大きな瞳を潤ませてアコが言う。
あまりの可愛さに僕は胸がきゅんとした。
これがときめきというやつだろうか。
純粋というのは時に驚異的な武器になるようだ。
宇宙人がそこに居なければ抱きしめてあわよくば押し倒していただろうが、僕も節操のない獣ではないのでここはぐっとこらえて頭を撫でてやるだけに留めておく。


「大丈夫だよ」


心の中でたぶんと付け加えながら、僕はそう言った。
アコを安心させるためにそう言ったものの、離れ離れになる可能性はゼロではない。
世間やら謎の組織の脅威はすぐにどうこうと言ったものではないが、僕にはもう一つ懸念があるのだ。

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