さよならアコ

複雑な乙女心

「ええと、アコさん・・・?」


僕は再び恐る恐る声をかけた。
いつからそこに居たのか、一切なんの音も聞こえず入ってきたことにすら気が付かなかった。
もしかしたら僕が気にしてなかっただけかもしれないけれど。
いつの間にか現れていたアコは僕の背後、とは言え背後と言うにはやや離れた位置で何かの柄のような物を握りしめたまま威圧感のある微笑みを浮かべて立っていたのだ。
いや、一見微笑んでいるように見えると言った方が正しいかもしれない。
きつく結ばれているが口角を上げているからにっこりと微笑むという表現がしっくりくるのだが、どう見ても心から笑っているわけではないし瞳は見開かれ感情が無く顔には何故か影が見えるようで正直怖い。
無表情な宇宙人よりもよっぽど怖い。
これは間違いなく、怒っているのだろう。
彼女もまた、僕の問いには返事を返さない。間違いない。怒っている。
しかし僕には彼女に怒られるような覚えはない。


「掃除は終わったんですかね・・・お疲れ様です」


敬語を引き摺ったまま、僕はアコに座る様に促す。
しかしアコはそれには応じない。というか、無視である。
もしかしたら聞こえていないのかもしれない。そう思いたい。
額に汗が流れた。
効果音を付けるならゴゴゴゴゴ、だろうか。


「いやぁ、戻ったなら声を掛けてくれればいいのに」

「わりと前に戻りましたよ。
丁度そう、絶対ダメっすよ、のあたりでしょうか」


ここまで静止状態だった宇宙人がようやく口を開き、何故か僕の問いに答えた。
僕は身体を戻して、反応が返ってくる方向へと喚いた。


「教えてよ!何か言ってよ!
戻ってきたのが見えたらおかえりなさいとか戻ったなとかあるじゃないか!」

「貴方と会話している途中だったので」

「その後は!なんで黙ってるんだよ!教えてくれよ!」


僕は宇宙人に訴える。
彼女は相変わらず無表情で、淡々としている。


「どうして彼女はそんな顔をしているのかと、考えていました」


変わらない調子で彼女は述べた。
僕はううむと唸る。
何となく彼女のことがわかってきたような気がする僕は、それ以上は彼女を責めることはできなかった。
ここまででわかったことだが、彼女は考えこむと停止するのだ。
この宇宙人にとってアコの態度は身体の動きを停止して考えなきゃいけないほど難解なことだったということだ。
僕にもわかる。怒っているのに笑っているなんてわからない。
きっと複雑な乙女心なのだろう。
僕は乙女の気持ちで考えてみる。
あの状況で腹が立つこと、か。
なんだろう、宇宙人が水道水をそのまま飲んだことかな。
いやでも、あれは絶対ダメより前か。
じゃあなんだ、僕が乙女だったら何が嫌だろう。
掃除をして、戻ってきて・・・
ああ、そうだ。分かったぞ。

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