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連続小説

布団は絶対だ!

だがそれはあまりにもひどい。
眠っている間彼女の精神がそこにないとはいえ、しかしそれではほとんどホームレス、というか中身がないならただの汚いラブドールである。
万が一誰かに見られたとしても、恐らくほとんどの人がゴミだと思うだろう。
寧ろ彼女にとってそれは好都合なのかもしれない。
しかし、だ。
それを聞いた僕はなんだか悲しくて、とてもいたたまれない気持ちになったのだ。
それなりに整った身なりをしているから、まさかそんな生活をしているなんて想像も付かなかった。
色々と他にも気になる点はあるが、僕はそれ以上は聞かなかった。
もっとひどい話が出てきそうだ。
公園の水道、いや、その辺の川で身体を洗っているとか言い出すかもしれない。
そんな話を聞いたら僕はきっとあまりにも可哀想で、涙腺にきてしまうだろう。
意外と人の苦労話に弱いのだ。
もっとも、彼女自身はそれを苦労だなんて思ってはいないだろう。
僕らは常識やらプライドやらがあるからそう言ったことを受け入れられないが、彼女にしてみれば都合がいいからそうしているだけなのだ。


「この家では身を隠す必要なんてないんだ。
暖かい布団で何の心配もなくゆっくり休んでくれていいんだよ」


お節介だとはわかっているが、自然とこんな言葉が出てしまった。
純粋に優しさのつもりだったのだが、言ってから少し後悔する。
自分がそんなこと言われたら、きっと恩着せがましいと感じてしまうからだ。


「そうですね。
隠す必要が無いのは助かります。
特に心配をしたことは無いのですが、やはりこの身体に何かあっては・・・対処しなければいけなくなりますからね。
布団は無くても問題は無いのですが」


宇宙人は素直に受け入れる
もうわかっていることだが、そういうやつなのだ。
わかっているはずなのに、いちいち考えすぎてしまう自分の性格が憎い。
それもこれも長年の会社勤めで培われた経験のせいだ。
それはさておき、彼女の発言にはどうしても聞き捨てならない部分がある。


「いや、布団は絶対だ!
この家で暮らす以上、布団は絶対使ってもらう」


これだけはやはり譲れない。
僕は勢いで強めに言ってしまったが、言った瞬間に考えを改めた。
だって、押し付けるのはやっぱり良くないからだ。


「と、僕は思ってるけど、取りあえず一回使ってみてくれ。
嫌だったらいいからさ、嫌じゃなかったら使ってくれればいいから」

「そうですか、わかりました」


宇宙人は頷いた。
なんだかうっすらと微笑んでいるように見える。
僕の言い方が面白かったのだろうか。
或いは布団を推されたことが、こんなふうにお節介を焼かれることが嬉しかったのだろうか。
後者はなさそうだが、そうだったらいいと思った。

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