さよならアコ

ご主人様のもの

「ゴミはゴミ箱ですよー?」


当たり前のことを訊ねられ、アコは首をかしげた。


「こんなにきれいにしたんならさ、いっぱい出ただろ?
全然見当たらないけどどこにやったんだ?」


うちのゴミ箱は余所に比べて小さめである。
遅くまで仕事をしている一人暮らしの男の住まいだ、基本的に食事は外食やコンビニ弁当、カップ麺が多くゴミは買ってきたときに付いてきたビニール袋にまとめてそのまま市の指定のゴミ袋にまとめてしまうため、ゴミ箱を使うことがあまりない。

一応ペットボトルとビン缶類は分けてベランダに置いてある分別用のゴミ箱に入れているがそれもそこまで大きくはないし、先週は出張があったため出し損ねてしまっているため中はいっぱいでゴミを入れるにはスペースがないだろう。


「ええと
ペットボトルとか缶とかビンはベランダにありますよ。
ちゃんと分けて置いたんでだいじょうぶです!
それからお部屋の埃とかティッシュとかはゴミ袋に入れてあります」
「それ以外の物は?」
「それ以外の物、ですかぁ?
んーと、雑誌とか漫画とか本は本棚、お洋服はお洗濯して洗面所に干してあります
あと、書類とかはファイルにまとめて引き出しに、よくわからなかったものはそっちの箱に入れておきました!」


茶碗片手に指折り数えながらアコは一つ一つ思い出すように説明をし、部屋の隅に置かれた段ボール箱を指さした。
今まで掃除なんて教えたことはないが実にしっかりとやってくれたらしい。
僕は実に感心した。


「あんまりきれいになってるもんだから、全部捨てちゃったのかと思ったよ
ちゃんと取っておいてくれたんだな」
「当たり前じゃないですか
ご主人様のもの、勝手に捨てるわけないですよ」


ここから見える彼女は後ろ向きだが、声色から笑っていることが分かった。
鍋の火を止め危なっかしい手つきで湯気が立つ中の汁を器に移し、先ほどの山盛りの白ご飯と箸とともに盆にのせる。

この盆もまた、しばらく見なかった品だ。
前に上司が所用で家に来た際にお茶を出すために購入したものである。
それ以降使われることはなくおそらく食器棚の上の方で眠りについていたと思うが、こんな感じで再び目にするとは思わなかった。

我が家で使用している食器棚は一人暮らしに似つかわしくない立派なものである。
知人から譲られたものだが横幅は狭く、上に長いためスペース的にも丁度よく収納量は多いという優れものだ。
棚の上は僕でも踏み台に載って背伸びをしてやっと手が届くという高さなのだが彼女はどうやってあの食器棚の上からこれを降ろしたのだろうか。
疑問は尽きない。

少し背伸び気味に調理台から盆を下ろすと僕の前まで運び、丁寧に並べた。


「在り合わせのもので用意したんで、口に合うといいんですけど」


申し訳なさげにアコが眉を下げる。
彼女の用意した夕飯は白いご飯とわかめの浮いた謎の汁という実にシンプルなものだった。

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