さよならアコ

腹の虫

沈黙が続いた。
僕は昂ってしまった感情が爆発しないよう抑えていただけだが、彼女はたぶんそれ以上何も言う事が無くなったのだろう。
外では煌々と、真っ赤な夕焼けが燃えている。
そう言えば昼食を食べていないな。
予定では買い物に行って、食材を買って帰ってくるはずだったのだ。
本当なら外で食べたい所だったがアコは食事をしないから。
アコが食事を取ることができるなら、お洒落なレストランでお高いわりに量の少ない素敵なランチやら最近流行のSNS栄えするお洒落なカフェで甘ったるいスイーツなんかを食べたい所だった。
きっとアコは喜ぶだろう。
それに、ああいう場所は興味があっても男が一人で入るのは気が引けるからな。
そんな事を考えていたらなんだか腹が空いてきた気がする。
結局買い物には行けなかったから、このままだとまた米とインスタント味噌汁だろうか。
満腹にはなるがあの食事は味気ないんだよなぁ。
なんだかものすごくラーメンが食べたくなってきて、突然僕の腹が主張した。
沈黙を裂く腹の虫に、僕は慌てて腹を押さえた。


「空腹ですか?」

「そっすね」


宇宙人に訊ねられ、僕は答える。
空腹になると腹が鳴ることが少し意外だったが、きっとそれも人間を観察したからなのだろう。
よく見ているようだ。


「夕飯時ですものね。
長居をしてしまいました」


彼女はそう言って、長い髪を滑らせながら立ち上がり、白衣の裾を正す。


「伝えなければならないことは伝えたので、そろそろ戻ります」

「え、ええ?」


唐突な退場宣言に僕は思わず彼女に飛びつき白衣の裾を掴んだ。
確かに夕飯時ではあるが、彼女をこのまま帰してはいけない気がしたのだ。
まだアコだって戻ってきていないし、それに大事なことも聞いていない。
どうしたこんなことになったのかとか宇宙人さんの身の上話は聞いたが、肝心のアコの今後の事とか、生活の上での注意とか、その他諸々大事なことを聞けていないのだ。


「待って、まだ帰らないでくれ!
まだまだ聞きたいことがあるんだよ!」


宇宙人を見上げて縋る僕に、彼女は冷ややかな視線を向ける。
たぶんいつも通りの無表情なのだが、そのせいもあってか見下ろされるとまるで氷の女王様のような圧力を感じるのだ。
そんな視線に思わずぞくりとしてしまうが、誤解しないでいただきたい。
僕にそんな性癖は無い。
思わず癖になってしまいそうで、僕は身の危険を感じて視線を反らした。
ところで思わず大胆な行動に出てしまったが、彼女は気分を害してはいないだろうか。
宇宙人とは言え女、ぱっと見少女のように見える相手にこんなふうに縋りついて、見た感じものすごくダメな感じじゃないだろうか。
我に返り僕は恥ずかしさで身が震えた。

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