トップページ > もくじ > ひとつ屋根の下

連続小説

ひとつ屋根の下

「外で働くのは悪くないですよ。
色々と勉強になりますし」


布団に突っ伏していた宇宙人が、満足したのか起き上がりこちらへと来る。


「そうかもしれないけどさ、僕としては悪い虫が付くんじゃないかって心配もあるし、何よりアコには家で僕の帰りを待っててほしいんだよ」

「そういうものですか」


彼女は冷蔵庫から先ほどしまったばかりのサラダパスタを取り出すと、僕の横に座りパッケージを開け始めた。
なぜ横なのだろう。
普通向かいじゃないだろうか。
ああ、そうか。ソファに座りたいのか。
僕の横に座った宇宙人を見て、アコがムッとしたのがわかった。


「ご主人様がそう言うなら、無理に働こうとは思いませんけど!」


少し強めの口調でアコは言うと、ふいとテレビ側を向いてしまった。
こちらを見ないようにということか、あるいは怒りを露わにしている。
もしくはそのどちらもだろう。
宇宙人はまったくそんなことを気にせず、僕の隣でサラダパスタを食べ始めた。
食べたことないものだからできたら一口と思っていたのだが、そんなことをしたら増々アコが怒りそうなのでやめておこう。


「そういえばさ、宇宙人。
お前、名前とかあるの?
これから一緒に暮らすって言うのにいつまでも宇宙人って呼ぶのはいかがなものかと思うんだけど」

「名前ですか。
ないですね。
基本的に私達はその星に1人なので、誰かに認識されるということがありませんので」

「でもバイト先では何らかの名前を名乗ってるんだろ?」

「はい。
システムで選出した異星人だとわかりにくくこの地域に馴染みやすい名前を使っています」

「それはなんていうんだ?」

「中村花子です」


それを聞いた僕は思わず食べていたパスタを吹き出しそうになった。
だって、目の前の七色に輝く髪を持つ整った顔の女が中村花子だって言うんだから。
こんなやつが中村花子だなんて、ちょっと面白いじゃないか。


「中村花子って顔かよ」

「よく言われます」


やっぱり。


「いい感じの名前だったらそれで呼ぼうかなって思ってたんだけど、中村花子はちょっとなー。
呼んでてなんか違和感があるというか、脳が誤作動しそう」

「そうですね。
私も未だに自分の名前として認識しきれない部分はあります。
そもそも名前という物を持つのが初めてなので、その文化に慣れていないというのもあるのですが。
ですので、お好きなように呼んでいただいて構いません」


そうは言われても、名前なんてぱっとは思いつかない。
アコの時だってだいぶ悩んで決めたのだ。


「それなら、宇宙人さんだからうーさんはどうですか?」


あまりに安直だが、悪くない気がした。
長すぎると不便だし、ちょっとペットっぽさはあるがあだ名と言われればそう思えなくもない。
何より、響きが少し可愛くていいのではないだろうか。


「うー、か。
僕は悪くないと思うけど、宇宙人はどうだ?」

「私はなんでも構いませんよ」


彼女は本当にかまわないという様子で、こちらには目もくれずパスタを口に運ぶ。
本人に異論がないならこれでいいだろう。


「じゃあ、今日から僕たちはお前の事をうーって呼ぶからな」


食べるのに忙しいのか、宇宙人は二度ほど頷いた。


「呼び方も決まったし、いよいよこれから3人での生活が始まるんだなぁ」


僕は食べ終えた弁当の容器をテーブルに置き、天井を仰ぎ見る。
見慣れた染み付きの天井、今まで一人で見てきた光景がそこにはあった。
今はこの部屋には一人ではない。
ずっと一緒ではあったが突然同居人になったラブドールのアコと、そのアコを生物にしてしまった突然やってきた宇宙人が居る。
これから僕らは3人で暮らすのだ。
なんだか変な感じがした。
初めて家族以外とひとつ屋根の下で暮らすのだ。
今までの気ままさは無くなるかもしれない。
もしかしたら喧嘩だってするかもしれない。
でも、なんだか先の事を考えるとワクワクした。


「どうしたんですか?
なんだか、嬉しそうですよ」


僕の食べたもののゴミを片付けたアコが、いつの間にか隣まで来て僕の顔を覗きこんだ。


「いや、なんか楽しいなって思ってさ。
一人で寂しいなんて思ったことはないけど、こんなふうに誰かが居るっていいな」

「そうですね」


アコが微笑む。
反対側から、プラスチックの容器と箸を持ったままの宇宙人改めうーの顔も覗く。
様子を見に来たようだ。
いつもの天井が新たな同居人たちの顔で覆われ、僕はたまらず2人を両手で抱き寄せた。
今日から僕らはひとつ屋根の下で、家族になる。

<< 私も         
トップページへ

PAGE TOP