さよならアコ

今更そんなことを

もういっそのことこのままそっとしておこうか。
ふとそんなことを思ってしまった。
いやいや、アコのご主人様としてそれはダメだろう。
僕は自分を戒める。
僕はアコのご主人様なのだから、いつだって彼女に対して真剣に向き合わなければいけない。
何も思いつかないなら、思いつかないなりにできることがあるだろう。
例えばそう、寄り添うとか抱きしめるとか。
考えを改めた僕がアコを抱きしめようとした時だった。


「なるほど。そういう事でしたか。
大丈夫ですよ、もっと凄い事も観てきましたので。
尤も、こうして実物を目の前にして観察したのは初めてですけれど」


何かを理解したのであろう宇宙人は、僕らをじっと見つめた。
安心してくださいと言わんばかりだ。
だが、つまり、どういう事だろう。
彼女の言っている意味が解らず僕は思わず首を傾げた。
余所で僕らがさっきしたディープキスなんかよりももっと刺激的なものを見てきたから自分のことは心配するな、という事だろうか。
だとしたら、かなり論点がずれている。
まぁ宇宙人だし、仕方がないのかもしれない。
つい今まで顔を覆って恥ずかしがっていたアコも、いつの間にか宇宙人の方を見て目をぱちくりしている。
ここは僕が訂正するしかないだろう。


「いやいやいや、そういう事ではないんだよ。
なんていうのかな、そっちの問題じゃなくて僕らの問題なんだよね。
プライベートなことを見られて恥ずかしいなーっていうか」

「はい」


宇宙人は即答した。


「わかっていますよ。
しかしですね、こちらとしてはもう随分と前からあなた方を観察しているのです。
キスもセックスも何度も観察しておりますので、今更そんなことを」

「待って!?ねぇ、ちょっと待って!?」


僕は彼女の言葉を遮った。
突然告げられた緊急事態に頭の中がぐるぐると回る。
何時から、何処までだろう。真っ先に浮かんだのはそれだった。
この宇宙人と出会ったのはほんの1、2時間前だ。
当たり前だがその間にセックスなんてしていない。
だから、それ以前なのは間違いない。
昨日の晩からか、それともアコが突然動き出したあの朝からか、それかもっと前からか。
細胞を作るのに時間がかかると言っていたから、僕が思っているよりきっと前からなのだろう。
なんてことだ。
僕は頭を抱えそうだった。
さっきアコにああ言ったが、僕にだって見られたら恥ずかしすぎて困ることのひとつやふたつある。
頭を抱えることができなかったのは、僕がそうするより先にそれを聞いたアコが「そんなの、もうお嫁にいけません!!」なんてベタなセリフを吐きながら顔を真っ赤にして部屋を飛び出したからだった。
間を置かず廊下から勢いよく引き戸を閉める音がしたので、間違いなく洗面所に飛び込んだのだろう。

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