さよならアコ

愛おしい

しかしどうだろう。
原因は僕だけにあるとは言えないのではないだろうか。

僕は思った。

普通、一般的に、朝起きたら寝間着から着替えるものではないだろうか。
普通はそうだ。

夜にエッチをして下着姿で眠ったからと言って、そのままで居るだろうか。
否、起きたら普通は服を着るものだ。

極端な例を挙げるならば、夜にボンテージを着てSMプレイに興じたからと言って、次の日もそのままのボンテージ姿で居る女王がいるだろうか。
いや、いない。

アイドルだってステージから降りれば衣装から普段着へと着替えるだろう。

そう、コスチュームはあくまでもコスチュームなのだ。

自分でも何を言っているのかわからなくなってきたが、つまりそう、アコは朝動けることに気が付いた時点で着替えるべきだったのではないだろうか。

だが、もしかしたら何か着替えができない事情があった可能性もある。

例えば、いつもアコの見ている前で選んでいたから可能性は低いが、服を仕舞っている場所がわからなかっただとか、場所はわかっていても背が届かなかったとかクローゼットの戸がかたくて開かなかったとか何らかの理由から取り出すことができなかっただとか、やはり体勢的に一人で服を着るのは難しいだとか、考えれば着替えられなかった理由の予想はいくらでも出てくる。

もしそうだとしたら、着替えるべきだ!なんて言ってアコを責めるのは筋違いだろう。
まぁ、そうじゃなくても僕が勝手に思っている一般常識をラブドールである彼女に語るのはどうだろう。
恥ずかしさから責任転換しようとしているだけのようにも思える。

そこで僕はできるだけ当たり障りの無いよう言葉を続けた。


「着替えても良かったんだぞ?
そんな格好じゃ掃除もしにくかっただろうし」


嘘ではない。
エプロンは本来家事をする際などに身に着けるものだが、今アコが着けているエプロンはデザイン性を重視するあまり機能性を投げ捨てているのだ。

アコは少し考えて、それからなんとも複雑そうに眉を下げて微笑んだ。
口元は笑っているのだが、僕には戸惑っているように見えた。


「うーんと、そうですね・・・
着替える、というのは思い付きもしなかったです」


彼女はすーっと息を吸うとゆっくりと目を閉じ胸に両手を当て、優しい穏やかなトーンで話を続ける。


「私は、ご主人様が選んでくれたお洋服なら喜んで着るんです。
それが嬉しいし、幸せなんです。
こんなのでも、ご主人様が選んでくれたものだから、自分から脱いだりしないですよ」


僕に当たり前があるように、彼女にも当たり前がある。
たとえそれがそんな格好だとしても、彼女には当たり前だから受け入れたというのか。

僕はなんだかそれがとても愛おしく思えて、彼女を抱き寄せた。


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