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連続小説

彼女のペース

一息ついて、彼女は労わる様に自分の腹部を撫でながら話を再開した。


「これはまだ試作段階ですので、問題点も多くあります。
そもそも我々のこの身体は燃費が良くありません。
生物でないものを生物として作り変えているから仕方がないことなのですが、常に細胞を生成し動かし続けるのには膨大な量の粒子を必要とします」


含みを持たせるような彼女の言い方は、何か良くないことを裏に秘めているような気がした。
僕は言葉を挟まず、ただ彼女の言葉を辿る。
止めてはいけない気がしたのだ。
彼女も僕の反応を気にする様子はない。
彼女のペースで、話は続いた。

「この装置が作り出す粒子の量はある程度を維持することはできても、それを動かしなおかつ新たな細胞を生み続けるにはままならない粒子量なのです。
粒子が枯渇すると細胞は機能を失い、その状態が続くと細胞は死んでいきます。
ある程度の量であれば死んでしまったとしても新たな細胞が作られることで生命としての外観や機能を損なうことは有りません。
ですが、現状私の身体は細胞の生成が追いつかず、常に死につつあります。
もっとも、この部屋内においては私の身体の死は停止した状態にありますが。
この空間にはこの装置で作り出せる量のおよそ1000倍の粒子が満ちていますので」


そう言われた僕は見えないとはわかっているが、部屋の中を見回した。
なんの違和感もないこの部屋が、知らないうちに未知の物質で埋め尽くされていたということに僕はなんとも言えない感情を抱く。
勝手なことをされた怒りだろうか、それとも未知の物に対する恐怖だろうか。
例えるなら、心臓をそっと指でなぞられたような得体のしれない気持ち悪さのようなものを感じた。
目の前の宇宙人は話を終えたようだ。
脱ぎ捨てた服をいそいそと着始めている。
時折突起した装置に衣類の裾を引っ掛けながら、不器用な手際で服を着る姿はとてもハラハラさせられた。
なにせ、ひっかけても外そうとせず力任せに引っ張るのだ。
装置はしっかりと固定されているのだろうが、取れてしまうのではないかと不安になる。
手を貸そうかとも思ったが、おそらく彼女に触れることはアコが許さないだろう。
かといってアコも彼女に手を貸すという気はないらしく、というかまだ少し怒っているらしく、頬を膨らませたままそっぽを向いている。
故に、僕は彼女が服を着終るのをただ見ていた。
彼女が纏う衣服は多くない。
きちんと丁寧に着ればすぐに終わりそうなものだが、そうしない所がまどろっこしかった。
科学者なのになぜそこを丁寧にやらないのか疑問はあるが、ある意味見た目通りではあるから、おそらくそういう性格なのだろう。

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