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連続小説

微かな違和感

服を着るのが大変ならばわざわざ脱ぐ必要はなかったのではないかとも思うのだが、そこは現物を見せて説明するべきという彼女なりのこだわりだったのかもしれない。
有り難いような、迷惑なような。
彼女は最後に白衣を羽織ると、パーカーの内側に入り込んでいた髪の毛を両手で引き出した。
派手な毛色が光を帯びて煌めきながら大きく広がり、重力に従って下へと落ちる。
どうやらようやく彼女の着衣は終了したようだ。
ここでようやく僕は口を開いた。
聞きたいことがあった。


「細胞が死ぬって言ったけど」

「はい」

「死んだらどうなるんだ?人形に戻るのか?
人形に戻るなら何の問題もないんじゃないか。
また粒子の力で細胞を作ればいいだけだろ?」


彼女の説明の中で、大きく引っかかったのがこの死という部分だった。
元々その身体は人形、生き物ではない。
説明の中では、細胞が死んでも新しい細胞が生まれると言った。
それなのに彼女が身体の死という表現を使ったことに、僕は違和感を覚えたのだ。
例えば緩やかでも、粒子を得ることで細胞が作られるということであればそれは身体の死とは言わないのではないだろうか。
その疑問に対する回答は早かった。


「一度変異した細胞はもう元の人形だった物質には戻れません」


僕は息を飲んだ。


「それは、つまり、えっと。
そうなると、もし細胞が完全に死に続けたらどうなるんだ」

「細胞同士の結合が緩くなるため形を維持できなくなり、身体が液化して崩れます。
現状この身体は30%ほどが液化していますが、それを装置によって無理に繋ぎとめている状態です。
液化した部分はもう細胞になることはできないため、このまま進行が進めばこの身体は破棄することになりますね」


僕は先ほど見た彼女の身体を思い出した。
あまりまじまじ見てはいけないと思ったがつい見てしまったその身体は、たくさんの装置が埋め込まれていた。
その装置の埋め込まれ方に、僕は微かに違和感を覚えていたのだ。
まるで砂地あるいは粘土のようなある程度反発力と粘度のある柔らかいものに杭を差し込んだような、異物を裂けるような接面の膨らみ。
ただ打ち込んだだけではなく、抵抗ではなく、受け入れられるような状態にあったということだ。
恐らくあの部位はゼリー、またはゲル状だったのだろう。
思い返していると、喉の奥に違和感を覚えて僕は反射的に口を手で覆った。
熱いものが喉を焼きながら口いっぱいに拡がる。
ああ、これは。
僕は口を覆ってない方の手でテーブルの下に置かれたゴミ箱を掴み、引き寄せて顔を突っ込んだ。


「ご主人様!大丈夫ですか!?」


すぐさま異変に気付いたアコが僕の背を擦る。


「大丈夫、大丈夫だから。
ちょっと洗面所、行ってくる」


口の中の吐瀉物をゴミ箱に流し込みながら、そのまま顔を突っ込んだ状態で僕は立ち上がり部屋を出た。

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