さよならアコ

綺麗な部屋

僕は狐にでも化かされているような、そんな気分だった。
人形がひとりでに動くなんていう夢のような現実離れした光景が、やはり確実に夢ではなくそこにある。

見慣れたリビングはなんとも小ざっぱりとしていた。
どうやら僕のいない間に片付けられ掃除されてしまったらしい。

散らかしっぱなしだった雑誌はきちんとまとめられ、ソファに脱ぎ捨ててあったスウェットはどこかに行ってしまっている。
埃が積もってまるで雪景色だったテレビ周りは元の黒さを取り戻し、流し台に溜まっていた洗い物は洗われすでに食器棚に納められていた。

元々僕は掃除が得意ではないし、散らかっていてもあまり気に留めないタイプである。

掃除や片付けをするのは滅多にない来客があるときかよっぽど目についた時、足の踏み場が無くなったときくらいで、ただでさえやらないものをここ数日は仕事が忙しく、さらにとんでもない有様になっていたのだ。
そのうち暇になったらやろうとは思っていたのだが、このままいけばゴミ屋敷、アパートだからゴミ部屋だろうか、そうなっていてもおかしくはなかっただろう。


「これ、アコが片付けてくれたの?」


僕は後ろに立っている裸エプロンに声をかけた。
あんな汚い部屋をこの格好で掃除したんだろうか。


「はい!
あ、迷惑でしたか?」

アコは満面の笑みで返事をしたあと、申し訳なさそうに眉を下げた。
良かれと思ってやったのだが、もしかしたら僕にこだわりがあって散らかしていたのだとでも思ったのかもしれない。


「いやいや、助かったよ!
ありがとうな」


僕は心配そうに僕の顔を覗く小さなアコの頭を撫でてやった。
少し高かった人毛のウィッグは滑りがよく撫でやすい。
こだわってよかったと改めて思う。


「よかったぁ!
ちょっと大変だったから怒られたらどうしようって思いました!
ごはん温め直すので、座ってちょっと待っててくださいね!」


頭を撫でられたアコは笑顔に戻りそう言うと、調理台の鍋を火にかける。

僕はアコに促されるまま、ソファに座った。

130cmのドールは1分の1サイズとはいえ人間用のシンクには背が足り無いようで、いつだったか何かの際に購入したどこに仕舞ったかも思い出せない踏み台がどこからか持ち出され、有効利用されている。

それがあるということはおそらく目につく場所だけでなく棚の中やらシンクの下やら廊下の収納スペースやら見えない場所も整頓したのだろう。
大量に出たはずであるゴミはベランダにでも出してあるのだろうか。


「アコ、ゴミはどうした?」


もしかしたら大事なものまで捨てられているかもしれない。
気になった僕は湯気の上がる白いご飯を山盛りに盛りつけている最中のアコに訊ねた。

前の記事へ          次の記事へ
トップページへ

PAGE TOP