さよならアコ

こちらの常識

彼女はまるでスローモーションのようにゆっくりと首を傾げた。
無表情のまま首を傾ける姿は非常に不気味で、こいつの無表情に慣れ始めたような気がしていた僕は改めて引いてしまう。
その仕草はただただぎこちなく、どう見ても自然なものではない。
どこかたどたどしく、それでいて典型的なのだ。
恐らく人間に紛れるために人間について学んだのではないだろうか。
学んだのだろうと悟らせるあたり、彼女は正真正銘の宇宙人だが、それをなんとなく納得させてしまうほど実に宇宙人なのだ。
というか、彼女のことを本物の宇宙人だと知らない人でもたぶん宇宙人だと思うと思う。
学生なら間違いなくあだ名は宇宙人になるだろう。
若いってのは残酷なもので、見たままを口にする。
彼女の違和感は間違いなく、確実に優先的に拾い上げられるに違いない。
そのくらい彼女の無表情と仕草はちぐはぐで違和感のあるものだった。
そんなものだから、表情からは読み取れないがその仕草からするとどうやら彼女は僕の言葉に疑問を持ったらしい。
なぜそんなにゆっくり動くのかはわからないが、首を傾げたまま彼女は僕に


「それは何故です?」


と問うた。
ここまで一切の間はないのだが、少しは考えたりしないものだろうか。
考えるまでもないということだろうか。
彼女の首は傾いたまま静止している。
その様子は見ているだけでなぜだかこちらも首が痛くなってくる気がした。
疲れないのだろうか。


「何故って、それは」


もしかしたら彼女は宇宙人だから、こちらの常識なんてわからないのではないかと僕はハッとした。
思えば、彼女の文明は地球に比べて大きく進んでいるのだ。
彼女の頭上に浮かんでいる発光する物体もそうだし、人形を生命体に変えてしまうような科学力、あるいは魔法か。
僕にとっては理解の範疇を超えた異様な出来事だが、彼女にとってそれらが当たり前だとしたら、地球だけが大きく遅れていて、人形が生命体になるようなこんな未知との遭遇に大騒ぎするのは宇宙ではもはや未知でもなんでもなく騒ぐようなことでもないのかもしれない。
それ故に考えるまでもなく、僕が言っていることが最初から理解できなかったのだ。
それならばこちら、地球ではそれがすんなり受け入れられるようなことではないと彼女に伝え、理解してもらわなければならない。
僕は顔の前で右手の人差し指をピッと起てた。
宇宙人と僕の側で座るアコの視線が僕の指に集まる。
残念ながら指は関係ないのだ。
ただ説明に入るための所作というか、通過儀礼というか、なんだか勢いでポーズを付けてしまった恥ずかしくなってきた。
僕はわざとらしく咳払いを一つして


「説明しよう」


と言った。

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