さよならアコ

まだわからない

このままアコと一緒に居られればいいと思う。
しかし、まだわからない。
僕のもう一つの懸念、それはこの宇宙人のことだ。
こいつはラブドールであるアコを実験で自律する生き物にしたと言った。
アコがこうなったのはこいつの実験のせいなのだ。
せい、というかおかげというか。
まだこの宇宙人の真意はわからないが、こんなことをしたのは何か理由があってのことなのではないだろうか。
昔観た映画で、量産できる機械の兵士をたくさん作り出して戦争をするという設定があった。
もしかしてこの宇宙人はそんな感じの目的があるのかもしれない。
僕はごくりと唾を飲みこんだ。
目の前にいるこいつの目的はどうあれ、僕はアコを手放す気はない。


「なるほど理解しました」


傾いたままの彼女が口を開いた。
こちらにも微かに聞こえる小さな鈍い音を立てながら首がようやく徐々に元に戻る。
長時間曲げていたから関節が固まってしまったのか、いや、それにしてもこんな音はでないだろう。
正常な角度に戻った頭部を彼女は左右に数回振った。
もしかしたらこいつは人間ではないのか?
いや、宇宙人なんだけどそうじゃなくてもっと根本的な部分で。


「そちらの言っていた事ですが、確かに多少可能性はありそうですね。
ですが、そこまで心配する必要はないかと思います」

「それはまた、なんで」


もしかして目撃者の記憶を操作したり、最悪目撃者を始末するつもりか・・・?
宇宙人が出てくる映画でそういうの観たことがあるぞ。
僕は身構えながら、しかし内心ではワクワクした。
恐怖もあるのだがそれに勝る好奇心、宇宙人との接触らしい展開についつい心が躍ってしまうのだ。
彼女は七色の髪を揺らしながらスッと立ち上がり、両手を大きく広げる。
頭上の発光体の光を受けるその姿は何処か神々しく、僕とアコは座ったままそれを見上げた。
そして彼女が視線を宙にやりながら言った。


「それはこの空間内でしか自由に動くことができないからです」


彼女の言葉に僕は息を飲んだ。
彼女の視線はアコを映してはいないが、それ、とはアコのことだろう。


「この空間ってつまり」


僕は言葉を詰まらせながら彼女に訊ねる。


「この貴方の部屋内です」


彼女はきっぱりと言った。
僕は先ほど玄関を出た時のことを思いだす。
なるほど、そういうことか。
不思議と僕は冷静に状況を飲み込んだ。


「それって、私はお家から出られないってことですか・・・?」


アコは声を震わせた。


「出ても構いませんが、そこから一歩外に出たら貴方はただの人形に戻ります」


宇宙人が玄関を指さし冷たく言い放つ。
あんなに外に出ることを楽しみにしていたアコにとってそれはどれほど辛いことだろう。
今にも泣き出しそうな顔で力なく崩れるアコを僕は支えた。

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