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連続小説

マッドなサイエンティスト

彼女はこくりと頷いた。
こういうところはやけに素直な宇宙人である。


「ええ。わかりません。
身体の変異状況やこの部屋に満ちている粒子の質や量と言った環境要因で数値が大きく変わりますので。
この身体から得たデータを元に算出したおよその目安は有りますが、確実なものではないので」


彼女の言うことは尤もだ。


「実験をすれば確かな答えを得られますけれど」


言葉が止まり、目の前の女がわずかに小首を傾げた。
相変わらずの無表情だがその様子はどこか僕を試しているように思える。


「それを行った場合、私のような身体になる可能性は少なくはありません。
私は構いませんが、そちらは不都合があるのでは?」


やや挑戦的な物言いに僕はたじろいだ。
あれ、なんか棘がある?やばくない?
実はわからないことを突かれたことを気にしているのだろうか、或いは身体のことか。
どちらにせよ彼女よりも圧倒的に知性の劣る生物である僕が対等な立場から踏み込むなんて生意気なことだったかもしれない。
彼女があまりにも懇切丁寧で対等に接してくれるものだから忘れていたが、こいつは宇宙人なのだ。
こうして普通に接しているがよく考えれば、いや、よく考えなくても危うい状況だった。
今のところ無害であるが彼女の頭上に控えている発光体、もし彼女の機嫌を損ねればあれからレーザー光線が発射されて僕の心臓を一瞬にして消し炭になんてこともあり得ないわけではない。
自然と崩していた足をきっちりと揃え、背筋が伸びる。


「それは、困ります。
やめてくださいお願いですから」


態度を改め敬語が飛び出す。
そんな僕に彼女は一言、「そうですよね」と言った。
表情は変わらないがその様子は心底残念そうである。
僕は気付いてしまった。
彼女は科学者でしかもマッドなサイエンティストなのだ。


「実験がしたかったんですか」

「ええ、もちろんです」


ずばり的中した。


「絶対だめっすよ!?」


大きめの声で僕は念を押す。
彼女の視線がとぼける様に泳いだのでもう一度繰り返す。
返事はない。
気付けば僕は大きく身を乗り出し、視線を反らす彼女の頬を両の手の平でがっちりと捉えていた。
それにはさすがの宇宙人も驚いたのか泳いでいた視線を真正面に定め大きく目を見開き、僕を映した。
その瞳はまるで湖面のように潤み、光がある。
生きていると思った。


「大丈夫です、しませんよ。
人の物に手を出すのは悪いことです。
それくらいの良識はあります」


無抵抗なまま、宇宙人はじっと僕の目を見て言った。
僕は我に返り、ぱっと手を離し「それならよろしい」と元の位置に戻る。
心臓が軋み、変な汗が流れた。
先ほどまで触れていた彼女の頬の柔らかな感触がまだ両手に残っている。
あの感触はつい最近触れたアコの身体とほぼ同じものだった。

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