さよならアコ

見ちゃだめですっ!!

多少小柄だが、彼女は一見どう見ても人間に見える。
今彼女の身体が元はラブドールと知った上でよく見ると、アコと同じように瞳の様子や肌質など確かに所々人間らしさが欠如した人工的な部分があることがわかった。
しかし、長い髪が彼女の仔細な様子を覆い隠し、その上奇抜な風体に目が行ってしまうため、人らしからぬ違和感に気付きにくいのだ。
彼女をまじまじと見ているうちに、僕はふと、矛盾に気付いた。


「なんで同じラブドールの身体なのに、そっちは外でも平気だったんだ?」


僕らが出かけようとしたあの時、アコが倒れた玄関先に彼女は居たのだ。
この部屋内に満ちている未知の物質が無ければ自由がないと言ったのはこいつじゃないか。
それなのにあの時この宇宙人は何事もないように颯爽と現れ、僕とアコと部屋内に回収したのだ。
見たところ、アコとこの宇宙人には身体的には大差ないように思う。
唯一おかしな点があるとすれば頭上に浮いている発光物体だが、もしやこれに秘密があるのだろうか。
彼女はこれのことをメモと呼んだがただの覚書の代わりの録音機器であれば、こんなに派手に発光している必要はないだろう。
現に、この地球にも光らない録音機器はたくさん存在している。
尤も彼女の好みで光らせている可能性はあるが。


「それはですね」


彼女はそこで言葉を止め、何を思ったのかばさりと羽織っていた白衣を勢いよく投げ捨て、そのままいそいそと身に着けていた衣服を脱ぎ始めた。
僕とアコは一瞬呆気に取られてしまい、言葉を失う。
正直なところ、あまりにも突拍子のない行動に頭が追いつかなかったのだ。


「ご主人様!見ちゃだめですっ!!」


宙を舞う白衣が大きく翻り女の肢体がほんの少し視界に映るか否かというタイミングで、僕の視界をひやりとした何かが覆った。
それと同時に後頭部に柔らかな塊が押し付けられる。
アコが目の前の光景を見せまいと僕の目を手で塞いだのだ。
不健全だから見てはいけない、ということだろうか。
しかし突拍子もない行動に驚きはしたが僕もいい年齢だ、女の裸ぐらいで動じることはない。たぶん。
まして目の前の女は宇宙人で、その身体はラブドールだ。
宇宙人はさておき、毎日アコの服を着せ替え手入れを怠らない僕にはラブドールのボディは見慣れたものである。
そんな僕の視界を塞ぐ必要があるだろうか。
アコの手は微かに震えていた。
表情が見えないためどんな感情かはわからない。
しかし何故か嫌な予感がする。
これはもしかして怒っているのではないだろうか。
決してやましい気持ちではなくきっとこの行動には何か意味があるから見る必要があるのだと、僕は恐る恐るアコに声を掛けた。

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