さよならアコ

無理なのか?

しかし何故この家の中だけなのだろう。
彼女は人形を自律させる実験をしていると言った。
自律するって、こんな狭い空間内だけで完結するものなのだろうか。


「どうしても無理なのか?」


どうにもその事実に納得がいかなかった。
でもこの部屋の中で自由な生物を作るなんて中途半端な気がする。
宇宙人とはいえ科学者を名乗る彼女が制限はあるけどとりあえず動くようにはなりました、なんてそれで満足するのだろうか。
僕ならさらに上を目指すだろう。
僕の問いに彼女は宙を見ていた視線をこちらに向けた。


「現状では」


彼女の言葉は続く。


「現段階で彼女を自律させているのはこの空間に満ちている私が開発した粒子の影響です。
これは地球にはない物質、いえ、現象と言った方が正しいかもしれませんね。
私の故郷では自然発生しているあるものを少々改良したものですが、その辺は地球人の貴方に説明してもわからないと思うので省略します。
こちらの言語ではそれを表現する言葉がないので粒子と言いますが、対象物に疑似的に生命活動をさせる細胞のようなものを生成することができるのです。
それは対象物の根本を作り変えると同時に作り替えた細胞のようなものを動作させるための動力源にもなります。
その為我々は粒子が満ちている空間でしか自由を得ることができません」

「我々?」


聞き捨てならない部分に僕は思わずまだ続く雰囲気の彼女の言葉を遮った。
我々というと複数形だが、そこに僕は含まれていない。
僕は地球人だからそんな粒子は関係ない。だからそこに含まれるのは彼女の同類かまたはそこにいる粒子で動いているアコということになる。


「ええ、私のこの身体はそれと同じ人工物から変異させたものです」


彼女は頷いて自分の胸に手を当てた。


「と言っても実験初期段階のものなので完成度としてはそれよりも劣りますが」


つまり彼女のその身体もラブドールということか。
どこか生気を感じさせない、宇宙人だからと思っていた違和感の正体はそれだったのだ。
しかしそうなると、彼女の宇宙での姿が気になってしまう。


「でもなんで人形の身体が必要だったんだ?
元の身体じゃ何か不都合でも?」


脱線だとわかっていながら、僕は好奇心が止まらなかった。


「そうですね・・・
我々には貴方たちのような肉の身体は基よりありません。
思念体、とでも言うのでしょうか。
そのままでは離散してしまうので何らかの入れ物に留まる必要があります」


彼女は拒むことなく僕の問いに答える。


「この人形を使っているのは地球人に擬態するためです。
死体を使うことも考えましたが腐敗を止めることができなかったので。
これなら大きさも丁度いいし腐らない、必要なら交換することもできますから」


なるほど、と僕は頷いた。
確かにそれならラブドールは都合がいいのかもしれない。

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