さよならアコ

なぜアコが?

白衣=科学者というのはあまりに安直な気がするが、医者だって白衣を着るし、しかし僕はそれ以上何も言わずただ頷いたのだ。
あまり突っ込んでも事をややこしくするだけなのだ。
目の前にいるこの白衣の宇宙人を宇宙の科学者だと、引っかかる点もあるが僕は受け入れた。
受け入れなければ話が進まない。
受け入れた上で、僕は話を続けることにした。


「それで、その宇宙から来た科学者さんはどうしてうちで、いや、うちのアコで実験を?」


アコが自律するようになった原理を聞いたところで宇宙の技術なんて地球人でしかも科学知識を一切持たない僕には到底理解できないだろう。
恐らくこの宇宙科学者なら聞けば1から教えてくれるだろうが、それは時間の無駄になる。
そう考えた僕は自分の理解できそうな範囲で、疑問だった事を彼女にぶつけた。


「たまたまです」


即答だった。
悩む様子もためらう様子もなく、彼女はきっぱりと言い放つ。


「た、たまたま・・・?」


僕は目の前にいる女から発されたあまりにもさっぱりとした回答に呆気にとられた。


「たまたまって、それはつまり偶然ってことで・・・?」


僕はたまらず、もう一度彼女に確認する。


「そうです」


彼女は頷いた。


「いくつか仕込んだうちの一つがたまたまここだったのです」

「他にもアコみたいに動き出すってこと?」

「ええ、うまくいけば」


淡々と彼女は告げる。
僕は慌てた。
他のラブドールも動き出すかもしれないだって?
そんなことになったら大変なことになってしまうんじゃないか?
たまたま僕はアコを失うのを恐れて外に公表することを考えなかったが、他のラブドール所有者がそうだとは限らない。
金や名声目当てにラブドールを売る人間が出てくる可能性は大いにある。
そうなったら世間は大騒ぎになるだろう。
そもそも、まだ一般的には宇宙人とはコンタクトがとれていないとされている。
宇宙人の実験で人形が生き物になったなんてなったら大混乱になるんじゃないか。
もしかしたら秘密を独占したい謎の組織が生き物になったラブドールの存在を秘密裏にするために動き出すかもしれない。
公表した誰かがそれに巻き込まれるだけならいいが、もしかしたら自律ドール探知装置なんかが開発されて僕らまで巻き込まれるかもしれない。
SFには人権を無視した謎の組織が付き物だ。
僕はごくりと唾を飲みこんで、僕とあこの平穏の為にひとつ彼女に忠告することにした。


「それは、まずいんじゃないですか。
あっちこっちでラブドールが動き出したら大事件になりますよ」

「はて?」


切り揃えられた虹色の前髪を揺らし、首を傾げる女。
ぼんやりしているのか宇宙人だから謎の組織を上回る隠蔽力を持っているから余裕なのか、彼女に危機感はないらしい。

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