さよならアコ

二度寝

朝、思いのほか早く目が覚めた。
というのも、横で寝ていたアコが早々に起き出して部屋を出て行ったからである。
僕はまだアコが動くということに心底ほっとした。
欠伸を一つして、重い体をゆっくりと起こす。
土曜の朝に意識があるのはずいぶんと久しぶりだった。
いつもならば起きても二度寝してしまい、本格的に活動を始めるのは昼頃なのだ。
時間は朝の七時である。
アコはこんなに朝早くから起き出して、何をしているのだろうか。
僕は疑問に思った。
僕としては寝起きのまだ完全に意識が覚醒していないふんわりした時間をアコとイチャつきながら布団の中で過ごしたかったのだが。
アコの様子を確認すべく、冷たい床を踏みしめ居間へ向かう。
ガチャッとドアを開け居間を見回したが、そこにアコの姿はなかった。


「あれ・・・?」


アコは先に起きたはずで、テレビが点いていることからここに居たことは間違いなかったが、肝心のアコ本人の姿が見当たらない。
僕は血の気が引くような感覚に、目の前がくらりと大きく揺れるのを感じた。
これはいったいどういうことだろう。
アコは何処へ行ってしまったのか。


「まさか、誘拐・・・とか」


世にも奇妙な動くラブドールだ、僕はいろいろな事態を想定してしまう。
もしかしたら昨日、部屋を片付けているときに誰かに見られたのかもしれない。
もしかしたら昨日、僕のいない間に外に出て誰かに見られたのかもしれない。
こんな珍しい現象だ、見られればすぐに騒ぎになるだろう。
もしかしたら悪い輩に悪い目的で連れ去られたのかもしれない。
遠目には小さめの女の子にしか見えないが、わかる人には人形だということがわかってしまうだろうし。


「おい!アコ!
アコー!」


僕は最悪の事態を想定しながら、家の中にいるかもしれないという希望も捨てずアコを呼んだ。
すぐさま廊下から、バタバタと音が聞こえドアが開き、タオルで前を隠した水浸しのアコが顔を出した。


「ど、どうしました!?」


どうやらシャワーを浴びていたようだ。
髪は濡れていないが、肌から水が滴りところどころに泡が付いている。


「あ、いや、ごめん。
はは、姿が見えなかったからつい」


早とちりしてしまったことが恥ずかしい。
僕はとりあえず笑って誤魔化した。


「そうですか、よかった!
もう起きたんですね。
ちょっと流してきちゃいますね」


アコは嫌な顔一つせず、ほっとしたように微笑んだ。
相当驚いて慌てて出てきたのだろう。
そう言うと、洗面所へ戻って行った。


「よかった・・・」


僕は安堵し、とりあえずソファに座ってアコを待つことにした。
テレビの音で気付かなかったが、よく耳を澄ますと壁の向こうから水の流れる音が聞こえる。
誰かがシャワーを使っているとこんな感じなんだな、と僕は初めて気づいた。

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