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連続小説

無性に腹が立つ

「彼女は大丈夫ですよ」


背後から現れたのは、居間で待っていたはずの宇宙人だった。
心配というよりはただ様子を見に来たという感じで、いつからそこにいたのか、一部始終を見ていたようだからもしかしたら僕が気付かなかっただけで後を付いてきていたのかもしれない。


「彼女は大丈夫ですよ」


聞こえていないと思ったのか、彼女は先ほどと同じ文言を繰り返した。
僕は彼女のその様子がどこか他人事のようで、こちらの心情をどこまでわかって言っているのか、知ったような口を聞くのが腹立たしくて、思わず舌打ちをした。
彼女はそんなことなどまるで気にしない、というか見えていないというふうである。
そもそも、こいつが原因なのだ。
アコが動くようになって、話すようになって、確かにとても嬉しかった。
アコと共に生活していて、そんな想像をしたことは何度もあって、それが現実になったのだから。
だが、ただのラブドールだったアコに不満なんてなかったんだ。
そのままだって、良かったんだ。
それなのにこの宇宙人の都合で、アコがどうにかなってしまうかもしれない。
最悪、アコを失うかもしれない。
そう思うと、それまではそんなこと思いもしなかったのに無性に腹が立ってきた。


「なんでそんなことが言えるんだよ」


僕は威嚇するように低い声で言い、彼女を睨みつけた。
多少の変化は感じ取れたのか、宇宙人はきょとんとした顔で首を傾げる。
彼女は何も答えなかった。
頭上ではいつの間にか現れた例の光の環が耳障りな起動音を上げており、それが神経を逆なでする。
僕は再度舌打ちをした。
イライラすると出てしまう癖だ。


「アコの何が大丈夫だってのか、聞いてんだよ」


先ほどより強い口調で、僕は宇宙人に言った。
横ではアコがおろおろとした様子でゴミ箱を持ち、僕の顔と宇宙人とを交互に見ている。
アコの性格からして止めに入ってくるような気もしたのだが、それはなかった。
どうやら、どうしていいのかわからないようだ。
そう言えば、アコの前で怒りを露わにするのは初めてかもしれない。
二人でいる時に怒ったことなどなかった。
そもそもただのラブドールだったのだから、彼女に対して怒りを覚えるなんてあり得ないと思う。


「ああ、なるほど。
つまり、詳細と根拠が欲しいと」


宇宙人ははっとした様子だった。
彼女のこういうところ、本当に宇宙人だと思う。
含ませた部分が伝わらないというか、理解できないのだろう。
気が抜けて、思わずため息が出た。
なんだかこいつの相手をしていると怒るのも馬鹿らしくなってくる。
相手は宇宙人なのだ。常識の通じる相手ではない。
それに勝手にやられたこととはいえ、自由にしているアコの様子を見ていると和むしやはり喜ばしいことではあるのだ。
リスクを聞いたとたん怒るのはあまりにも大人げないと、急に冷えた思考が自分を諫めた。

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