さよならアコ

オフにしてくれ

3カ月の間ずっと見られていたというのも衝撃だが、知らぬ間に家に忍び込まれてあちらこちらに仕掛けを仕込まれていたことも衝撃だった。
思えば出会った瞬間からこちらに対して慣れているというか、やけに馴れ馴れしい所があった。
きっと3か月もの間監視していたせいで、他人とは思えなくなっていたのだろう。
テレビで見ている芸能人なんかに対してよくあることだ。
どうやって入ったのかとかどうやってテレビを開いて装置をくっつけて元に戻したのかとか58個もの装置を1日で付けたのかそれとも数日かけたのかとか、気になることは色々ある。
だがまあ、相手が宇宙人だからそんなことは気にするだけ無駄なのだ。
僕ら人間の常識では計り知れない相手なのだから。


「装置を外すことって、できる?」


僕は訊ねた。
いつでも見られているなんて、たまったもんじゃない。
僕らは人間とラブドールだが、プライバシーがあるのだ。


「できます」


宇宙人は即答する。


「なら、今すぐ全部取ってくれ」

「構いませんが、そうすると粒子が作れなくなりますのであれが死にますよ」


彼女に悪気はない。
そして、僕にも悪気はなかった。
考えればわかることだった。
確かに宇宙人は粒子を発生させる装置にカメラがあると言ったのだ。
それを取ったら粒子を作れなくなるなんて、当たり前じゃないか。
僕は慌てて「それはよくない!」と前言を撤回する。
アコが死んでしまうのは困る。
アコを生かすか、死なせてプライバシーを取るか、そういう2択と言う事か。
それなら僕に選択の余地はない。


「カメラだけ取る、もしくは止めることはできる?
ずっと見られているのはしんどいから、必要に応じてスイッチを入れればオンになる的な感じで」


僕は念のために聞いてみた。
それができるなら僕らにとって都合のいいことだが、こういうものは大体叶わないものだ。


「カメラだけ取るのも止めるのも無理ですが、カメラ機能をオフにすることはできます」


宇宙人はこれも即答する。
僕は心の中で「できるんかーい!」と盛大につっこんだ。
流石現実、物語のようなお約束通りにはいかないらしい。
有り難いことだが。


「それなら、オフにしておいてくれ」


これはお願いではない。指示だ。
ここは僕の家なのだから、その権利はあるだろう。
家主らしく毅然とした態度で僕は宇宙人に挑んだ。


「それは、少し困ります」


僕の態度に気圧されたのか、彼女は淡々としていた口調に初めて変化を見せた。
微細な変化だが、僕は聞き逃さなかった。
今までよりもわずかだがゆっくり、というか言い方に迷いのある感じだったのだ。
表情は変わらないが、きっと何か思うところがあったに違いない。
無表情キャラが変化を見せるなんて、普段なら指摘せずにはいられないのだがしかし、僕はそこよりも気になる所があった。

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