トップページ > もくじ > お き に な さ ら ず

連続小説

お き に な さ ら ず

やがてアコは抵抗をやめた。
頬を赤く染め、耐える様に硬く閉じられていた目蓋がとろんと緩む。
僕はこれ幸いとさらに深く激しく舌を絡ませた。


「おー」


背後で歓声が上がる。
その声は僕のすぐ背後からだった。
いつ移動したのか、気付けば真後ろにあいつが居た。
こっちに忙しくて見て確認したわけではないが、声の近さでわかる。
どういうつもりなのだろう。
というか、僕の後ろはテーブルのはずだ。
だが、声の近さからして、テーブルを挟んだ向こうに彼女が居るとは思えない。
一体今、僕の後ろはどうなっているのだろう。
まさか頭だけ取り外してテーブルの上に置いている、或いは両手でそれを突き出しているのだろうか。
相手は宇宙人だから、それも十分にあり得る。
急に気になってしまった僕は閉じていた目をうっすら開けて、限界まで黒目を動かし横目で肩越しを確認した。
ぶれて不鮮明な視界の端に、こちらを覗きこむ宇宙人の顔が見える。
残念なことに、首はしっかりと胴体と繋がっていた。
僕は安堵と共に、ちょっぴりがっかりする。
首が取れている場面を見てしまったらたぶん後悔するし嫌な気分になるのだろうとは思うのだが、怖いもの見たさというやつもあった。
てか、こいつ、テーブルに乗ってやがるな。
口内を忙しく動かしながら、僕は横目で宇宙人を睨みつけた。
見られるのはいい気分ではない。
すごくやりにくい。
しかもこんな近くでガン見だ。
僕にはキスを人に見せつける趣味はないし、一端に羞恥心も持っているのだ。
始めたのは僕だが、空気を読んで欲しかった。
キスを中断するわけにも、アコから手を離して手振りで追い払うわけにもいかない僕はたぶん伝わらないと思いつつも一抹の期待を込めて唯一の手段として薄目で彼女を睨みつけたのだ。
じっくりと結合部を観察していた彼女だったが、僕に見られていることに気付くと一瞬驚いた顔をしたが、雰囲気を察したのかうんうんと頷いた。
そして、声を発さず口パクで「お き に な さ ら ず」と、言った。
違う、そうじゃない。
僕は瞬き二回で否定する。
それを確認した彼女は再び頷くと、先ほどと同じように口パクで「ふぁ い と」と言っていい顔をして顔の横で拳を握って見せた。
あのお堅い宇宙人さんにこんな一面があったなんて。
今までまるで鉄仮面のようだった彼女が、うっすらだが微笑んでいるように見えた。
もしかしたら薄い横目で見ているぶれまくりな視界のせいかもしれないが。
かもしれないというか、たぶん、そうだ。
よく見ようと顔の角度をほんのわずかに動かした時には元の無表情に戻っていたから。
ともあれ、やはり彼女には伝わらないと確信した僕はそれならば早く済ませようとラストスパートをかけた。

<< どうだか          理性あるご主人様 >>
トップページへ

PAGE TOP