さよならアコ

女の戦い

「あの、アコさん。
手が・・・その・・・何も見えないんですが」


言ったあと、僕はしまったと思った。
これでは取りようによってはまるで僕が目の前の脱衣を見たいみたいではないか。
僕は心の中で自分の言葉選びの下手さを呪った。
会話が苦手というわけではないが、肝心なところで気が回らないのが僕なのだ。
心臓が軋む様に痛い。ストレスだ。
しかし僕の苦悩をよそに、帰ってきたアコの声は至って冷静な様子だった。


「見せないようにしてるんですよ?
もしかしてご主人様、見たいんですか?
私以外の裸を見たいんですか?」


違う、これは冷静なわけではない。
まるで抑え込むような威圧感、丁寧だがどこか冷ややかで棘のある言い方。
漫画のように背景に擬音を表示させるなら間違いなく“ゴゴゴゴゴ”である。


「いや、あの、すいません」


見えてはいないがその雰囲気に気圧された僕は思わず謝っていた。
しかしながら、悪い気はしなかった。
これは恐らくやきもちなのだろう。
自分以外を見ないで欲しいなんて、実に可愛らしいじゃないか。
二人きりではわからなかったアコの新たな一面にほっこりしつつ、嬉しいような惜しいような複雑な気持ちを僕は飲み込んだ。
やましい気持ちはないと言ったが、本音を言えば僕だって男なのだ。
しかし僕には可愛いアコがいる。
アコの気持ちに応えるためにも、僕はこの赤茶色の視界を受け入れなければならないのだ。


「何をしているのですか」


服を脱ぐごそごそ音が止まり、宇宙人は訝しげな様子でこちらに声を掛けた。


「そっちこそ突然どういうつもりですか!
ご主人様が変な気を起こしたらどうするんです!」


いやいやそれはこちらのセリフだよと思ったのも束の間、僕が口を開くよりも先にアコが彼女に食ってかかる。
アコがこんな風になってからまだ二日しか経っていないが、こんな様子は普段のアコからは想像もつかなかった。
僕と二人の時は穏やかで明るくて、ただただ優しかったのだ。
声の様子からするとどうやら怒っていたのは僕に対してではなく、いきなり服を脱ぎ始めた彼女に対してらしい。
というか僕、変な気を起こすと思われていたのか。
だから目を塞がれたのか。ちょっとしょんぼりしちゃう。


「僕が変な気を起こすのはアコだけだ!」

「ご主人様は黙ってて!」


僕の弁明は虚しくも受け入れられなかった。
これが噂に聞く女の戦いというものなのだろうか。
なるほど確かに男が割って入る余地などないようだ。
僕はアコにないがしろにされた寂しさをなんとかそう言い訳をして慰める。
悪気はないのだ。ただ、目の前の脅威に真剣なだけで。
一方当事者であるはずの宇宙人女は特に気にした様子もなく、


「変な気、ですか。
それはどういうことです?」


と言った。

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