連続小説

ピンチ

僕の目を塞ぐアコの手に力が加わる。
始めはただ覆うだけだったのだがアコのテンションに相応して徐々に力が加わり、今ではすっかり目蓋の上から眼球を圧迫しているのだ。
手に力が加わるということは僕の頭も眼球と同じく押されており、より一層アコの柔らかな胸に強く押し付けられ、というか埋もれつつある。
アコがまだ普通のラブドールだった頃はよくこうして胸に体を預けて眠ったものだ。
昨日は気付かなかったがあの頃に比べるとより柔らかくなった気がする。
宇宙人の実験の影響なのだろうか。
なんというか、今までも柔らかかったのだがやはりどこか人工的で、人間のそれとは違っていたのだ。
今は柔らかさの中になんともいえない弾力というか重みというか、ただ柔らかいだけではなく重力の影響や皮膚の弛み、そして微かな鼓動を感じる。
こういうと生々しいが、要するにリアルになったのだ。
こうして触れてみるとその変化はとても明白で、漠然と告げられた自律する人形や作り変えられた細胞は話で聞くよりも現実だった。
もしかしたら、これは変化の途中なのかもしれない。
昨日よりも、そして今朝よりも、アコの身体は生き物に近くなっていた。
そして今、その事実を噛みしめながら僕はまさに天国と地獄の状態なのだ。
願わくはこのまま僕の目が無事でありますように。


「ど、どうって・・・それは、その・・・」


アコは声を震わせながら言い淀んだ。
宇宙人の態度に怒っているのかと思ったのだが、どうやらそうではないようだ。
先ほどまでの勢いはなく、見えないので確証はないが困っているようにも思えた。
僕に気を使っているのだろうか。
いや、そんな感じではない。
アコは僕に対しては結構容赦のない所がある。
そもそも僕が変な気を起こす可能性があるような事を言い出したのはアコなのだ。
勢いで言ったのだとしても、今更そんなことを気にするだろうか。


「変な気とは一体どのような気なのです?」


宇宙人が更に追い込む。
好奇心なのか、アコに対する意地悪なのか。
恐らく前者なのだが、今はただただ悪意を感じざるを得なかった。
僕の眼球は圧迫され声なき悲鳴をあげているのだから。
宇宙人の問いに対し、アコは言葉を詰まらせなぜかもじもじと身体を揺らし始めた。


「それは、ですね。
えっと、その・・・あれですよ・・・」

「あれとは?」


宇宙人が畳み掛ける。
その言葉にアコは意を決したように息を吸い込んで大きく吐き出した。
僕もそれに倣って心を決める。
ついにこの戦いに終止符が打たれるのだ。
状況によっては僕の眼球もただでは済まないだろう。
多少大袈裟ではあるが実際目の方はかなりピンチなのだ。
これは初めて知ったのだが人間の目というのは押され過ぎると鼻が詰まるらしい。

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