連続小説

ぽかん

まったくうかつな行動をしてしまう自分に腹が立つ、と言うか呆れてしまう。
本来僕はもっとクールでスマートな大人の男性のはずなのだ。
少し剽軽な所はあるがお笑い要員ではない、どちらかと言えばツッコミ側だ。
そんな僕がこんな醜態を晒しているなんて、自分でも信じられない。
きっとここが自宅であるという気の緩みと相手が気の良い宇宙人だと言う事、それからだいぶ落ち着いてきたこの敏感な涙腺のせいだ。
そうに違いないと僕は奥歯を噛みしめる。


「なんでしょう」


頭上から宇宙人の声がする。
さっきは氷の女王のようだなんて思ったが、声だけならまるで天女だ。
言葉遣いも丁寧だし、彼女は見た目に反して澄んだ声をしているのだ。
僕は羞恥で火照った頬と気持ちを落ち着けるため長い深呼吸をひとつして、彼女の白衣から手を離した。


「ごめん、いきなり消えるんじゃないかと思ってさ」


僕は降参するように両手を頭の横に上げ、謝った。
それから握られていた白衣に着いた皺が目につき軽く叩いて伸ばす。
なかなか強く掴んでしまっていたらしく、叩いても元のピンとした布地には完全に戻らないことに諦めを感じつつ僕はじりじりと後ろに下がる。
もし彼女が気にするようなら預かって洗濯をしてアイロンをして返そう。


「そのつもりでしたが・・・
ああ、玄関から出た方が良いですか?」


いやいやいや、いきなり消えるつもりだったのかよ!
と僕は心の中でツッコミを入れた。
宇宙人はハッと目を見開いた後、顎に手を当てて考えるポーズで静止する。


「いや、そうじゃなくってね?
ていうか僕さっき、まだ聞きたいことがあるって言ったじゃない」

「このまま消えるのかと、聞いたではないですか」


不思議そうに首を傾げる彼女に、僕は思わず目を細めた。
確かに僕は聞きたいことがあると言った後に別の言葉を挟んだが、まさかこんな形ですれ違うなんて思わなかった。
なんて難しいんだ日本語。


「それは質問じゃなくって、僕の感想と言うかなんというか。
本当に聞きたかったのはそれじゃなくって、ほら、アコと生活していく上で気を付けることとかそういうことなんだけど」

「ああ、なるほど」


ようやく彼女の手が顎から離れる。
どうやら失念していたようだ。
もしくは初めから話す気がなかったのか。
宇宙人は一瞬視線を宙に浮く発光体にやり、右手の人差し指を立ててこちらを向く。


「この部屋から出さないでください。
それだけです。
部屋内であれば基本的に人間と同じように生活していただいて問題ないですよ」


まるで医者のようだ。
まあ、博士なんだけど。


「それだけ?」

「はい。
いつも通りで大丈夫です」


あまりにも簡素で頼りない指示に、僕は彼女を見たままぽかんと口を開けた。

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