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連続小説

違いますよ

「ごめんなアコ、掃除をして戻ってきたのに誰も気づかなかったから寂しかったんだな」


僕は身体をアコの方へ向け、出た答えを決め顔で述べた。
別に格好つける気なんてなかったのだが、答えに自信があったせいで自然と決まってしまったのだ。
ついでに手まで付いた。ピストルの形でまるで答えを投げかける様に手を振ってしまった。
指先がアコの方を向いて止まる。
自分でやったこととは言え冷汗が止まらない。
普段ならお茶目さんと笑って許されるだろう。今までそんな場面はなかったが。
冷ややかな場の空気を和ませようと本能的に動いてしまったのだろう。
これで外していたらいい笑いものだが、当たっていたら場の空気をひっくり返すことができるだろう。
僕は重たい空気を飲み込んだ。
アコがゆっくりと口を開く。
そして絞り出すような声で、


「違いますよ」


と言った。
やってしまった。
僕の渾身の推理は呆気なくもたった一言で全否定された。
それどころか火に油を注いでしまったらしい。
アコは笑顔だが手に持つ何かの柄を握る力が強くなるのがはっきりとわかる。
身体をわなわなと震わせ、もう怒りのダムは決壊寸前と言った様子だ。
僕は助けを求めて宇宙人の方を向きアイコンタクトを送る。
目が合うが意味が分からないと言った感じで首を傾げられてしまった。
元よりそれほど期待していなかったがやはり助け舟は望めないようだ。
こうなっては何を言っても状況が悪くなるだけだろう。
僕は口を噤んだ。
だからと言って良くなるとは思えないが、何か失言をするよりはましだ。
せめて真剣だということだけでも伝わる様に、僕はアコの目をじっと見つめた。
それが良くなかった。
アコの手の中で木材がめりめりと悲鳴を上げる。
感情がとうとう頂点に達したようだ。
しかし笑顔は崩さないまま、抑えたような怒気を孕んだ声で僕を威圧する。


「キス、してましたよね」


全く身に覚えのないことに、僕は呆気に取られてただただぽかんと口を開けた。
いやいやいや、いつ、誰と、何処で!
言いたいことがぐるぐると頭の中で渦を巻いた。
アコが何の事を言っているのだろう。
全くの誤解だ。


「ふむ、キスですか。
接吻、口付けの事ですね」


宇宙人がまるで国語辞典を引用してきたかのように解説を挟む。
そんなことは知っている。


「いやいやいや、ないない!ないよ!」


僕は盛大に否定した。
アコはじっとりと僕を睨みつける。


「誤魔化しても無駄ですよ。
この目でちゃんと見たんですから」

「えぇ・・・」


一体何を見たと言うのだ。
身に覚えはないが、そんな風に睨まれると鼓動が早くなってしまう。
アコの腕が動いた。
手に持っていた何かの柄を一旦床に置き、両手で自分の頬を包む。


「こうやって、顔に手を当ててしてたじゃないですか」


前言を撤回する。
身に覚えはあった。
しかし、全くの濡れ衣である。

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