さよならアコ

プライド

日付が変わろうとしていた。
明日は土曜だ、僕の勤めている会社はサービス残業こそ多いブラック企業ではあるが土日はきちんと休みというきっちりしたところがある。
というか、土日に休みを取るために残業をするのだ。
今日頑張って仕事をしたおかげで、明日はもちろん休みなのである。
それ故僕が望むのであればこのままアコを押し倒し、しっぽりと事に及んでしまうのは不可能ではない。
寝るのが遅くなり明日寝坊をしてしまったところで不利益を被ることも誰にも迷惑をかけることはないのだ。
しかし、僕はそうしなかった。
なぜならそう、非常に疲れていたのである。
今朝の衝撃的な出来事を受け入れることができなかった僕は今日一日、非常事態に思考を放棄しまるで機械のように無心で働いていたのだ。
今まで可もなく不可もなく目立つ業績も挙げずゆるくやってきた僕が、周りから関心を通り越し心身の心配されるほどに仕事を捌いたのだ。
そのため頭は重く、デスクワークなのになぜか体の節々が痛んだ。
多少の疲労であれば性欲は強くなるのだが、ここまで疲れていると不思議と全く起つ気がしなかった。


「そ、そろそろ遅いしシャワー浴びて寝ないとな!」


僕は抱き寄せた彼女を引きはがす。
瞳を潤ませ頬を朱に染めたアコが名残惜しそうに真っ直ぐ僕の瞳を見つめた。


「しない・・んですか?」


誘うように呟くアコ。
その効果は絶大で、思わずそのまま襲い掛かってしまいそうになるがぐっとこらえる。
今したところで、満足な結果にならないだろうということが想定されたからだ。
最悪の場合、最後まで致せず気まずい雰囲気になってしまうだろう。
僕も男である。
ラブドール相手とはいえ、それはプライドが許さない。


「いや、ほら、もうこんな時間だからさ」


僕はアコから目を反らし、尤もらしくアコにそう告げ立ち上がった。


「じゃあ、お手伝いします!背中流しますよ!」


立ち上がった僕に続こうとしたアコを、僕は制止する。


「今日は一人で入りたいんだ、ごめんな」


そう告げるとアコは少ししゅんとした様子でわかりました、と言いその場に座り込んだ。
すんなりと聞き入れてくれたことに僕は安堵する。
無理やりにでも着いてくるんじゃないかと思っていたのだ。
その辺、アコは従順なようだ。
正直なところ、少し寂しくもある。
もっとぐいぐい来てもらえた方が男としては嬉しいものがあるのだが、しかし、それでは疲れてしまうだろうか。
そう考えるとアコの従順さは有り難いものかもしれない。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「はぁい、いってらっしゃい」


顔の横で小さく手を振り大人しく座っているアコを後に、廊下にある洗面所を目指し僕は部屋を出た。
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