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連続小説

理性あるご主人様

早く終わらせようなんて相手に失礼だとは思うけれど、まぁ、これからえっちをするってわけでもないしそんなに長くする必要もないのだ。
ただ、そう。
アコに僕の気持ちが伝わればいいのだから。
息を吐きながら、ゆっくり離れてアコの唇を開放する。
離れる時に背中が前のめりになっていた宇宙人とぶつかったが、それは今は気にしない。
じっとアコを見つめたまま、僕は彼女の反応を待った。
アコは瞳を潤ませ深く息を吸い、荒くなった呼吸を整える。
なんだか色っぽいなと思った。
こんな状況じゃなかったら即押し倒している所だ。
僕が理性あるご主人様で本当によかった。


「どういう、つもりですか」


少し間を置いて、落ち着いたアコが顔を背けながら低い声で言った。
まんざらでもなかっただろうに、怒っているという態度は崩さないつもりらしい。


「ごめん、でも、キスってこういう事だろ?」


僕は毅然とした態度で答える。
内心では真っ赤になったアコの耳が可愛いなと思っていて、少しでも気が緩むと顔が崩れそうだった。
そうならないために、表情筋に頑張ってもらってできる限り真面目できりっとした顔を保っている。


「こんなこと、してないだろ?」

「む、むむむむむぅ・・・」


肩を震わせながら、アコが唸る。
確かにそうかもしれないと思い始めているのだろう。
キスで意表をつかれ、気が緩んだアコにはこうして押すのが効果的だとなんとなく思ったのだ。
僕はさらに畳み掛けた。
といっても強気で押すのではなく、できるだけ優しく、幼い子に言い聞かせるような感じで。


「こんなこと、アコにしかしないよ」


彼女の手を握り、顔を覗きこむ。
これは数日前にたまたまテレビをつけたらやっていたドラマで観たテクニックだ。
これには流石のアコも折れざるを得なかったようだ。


「そう、ですよね。
よく考えたら、キスじゃなかったかも・・・。
私の見間違い、ですよね。
私ったら早とちりして怒ったりして、ご主人様にあんなひどい態度を・・・ごめんなさい・・・」


アコは顔を真っ赤にして、もじもじと恥ずかしそうにしている。
目は合わせない。
気まずいのだろう。
僕はそんな彼女を抱きしめた。


「いいんだよ、誰にだって間違いはあるからね。
それに、勘違いとはいえヤキモチを妬いてくれて少し嬉しかったし」


これは紛れもない僕の本心だ。
思い込みが激しかったりちょっと面倒くさい所がある方が、可愛く思える。
責められるのが好きというわけではないが、こんなやり取りは理想だったし楽しいものなのだ。
アコが黙る。
ちょっと大袈裟すぎただろうか。


「なんて、ね」


なんだか恥ずかしくなってしまった僕は笑って誤魔化した。
アコは大きな瞳で僕を見つめながら、「ご主人様は心が広いんですね」と、感無量といった様子で言った。

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