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連続小説

両手を握るその姿

「一旦ストップです!
お話なら後でゆっくりしてください!」


僕の顔に手を押し当てるアコは少し怒ったような、それとも困ったような表情をしている。
なんとも複雑な心境のようだ。
もしかしたら、口を塞ぐつもりはなかったのかもしれない。
ただ手の平を大きく前に突き出して、ストップと言いたかったのだろう。
そう思ったのは、僕の視界にあるこの影が大きく開かれたアコの手の、指先だったからだ。
口を塞ぐのに手を広げたままってことがあるもんか。
見れば宇宙人も僕と同じように開かれたパーの手で顔を塞がれていた。
どうやら喧嘩の仲裁に入る様な感じで、僕らの間に躍り出てきたようだ。
宇宙人はまだ何も言ってないのに。
状況は彼女の方が悪く、口というか完璧に顔のど真ん中を押さえられている。
これは怒ってもいいのではないだろうか。
僕が一方的に話していただけで、と言うか質問攻めにしていただけで彼女はまだ一言も話していないわけだし、見た感じ結構がっつり鼻を塞がれている。
勢いによっては痛い思いもしているのではないだろうか。
声を荒げるのは大人げないと思うし宇宙人もそんなキャラじゃない、にしても彼女には十分にその権利があるように思えた。


「今日すぐ越してくるならお部屋をなんとかしないといけないじゃないですか!
少し片付けないと、このままじゃお布団敷けないですよ!」


アコの言う事はもっともである。
やっぱり一緒に住むからにはこの家で布団を敷いて寝起きしてほしいという気持ちは僕にもあった。
アコも自然とそう考えていたようで、なんだか通じ合うものがあるようだ。
今住んでいる場所がUFOと聞いたせいだろうか。
もしかしたらUFOの中はこの家よりも快適という可能性はあるが、なんとなくイメージは車中泊だったのだ。
だから用意ができてないからできるまで待ってというのも言いにくい気がして、それなら無理にでもスペースを作ろうとすら思っていた。
最悪居間のソファでもいいだろう。
まあ、アコにはあの和室に布団を敷く以外の考えはないようだが。
僕は返事をしようと思ったが、口を塞がれているせいで声は出せず滞った吐息が手と唇の僅かな隙間から微かな音を立てて漏れるだけだった。
話している最中だったから口は微妙に開いたままなのだ。
僕はそこから舌先だけ出して、アコの手の平を軽く舐めてみた。
ほんのり塩味がする。


「ひゃあっ!?」


アコは奇声を発しながら一歩後ろに飛び上がる。


「何するんですかぁ!」


飛び上がった際に僕と宇宙人の顔から離れた手を庇うように擦りながら、アコは涙目で僕を睨みつけた。
赤くなった頬に潤んだ瞳、腰をくねらせて顔の横で両手を握るその姿はなんだか可愛らしく、思わず僕はきゅんとしてしまった。
こんな時に可愛いとか思ったらきっとアコは怒るだろう。

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