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連続小説

先に転がってみる?

帰り道、僕らは何も話さなかった。
聞きたいことは色々とあったが何から聞けば良いものか分からなかったし、それに大半はコンビニ内のやり取りで答えが出ていたからだ。
僕が訊ねなければ宇宙人の方から何かを言ってくることはまずない。
有り難いような気まずい様な沈黙の中、僕らは部屋へと戻ったのだ。


「ただいまー」


玄関を開けて室内に入ると再び宇宙人の髪が輝きだす。
うちの中ではこれがデフォルトのようだ。


「おかえりなさい!」


居間に繋がる扉を開けると布巾を手にしたアコが駆け寄ってきた。
僕らが家を出た後も彼女はしっかり働いていたらしく、和室に布団を敷くだけではなく居間に出したものまで綺麗に整頓して壁際に寄せられ、さらにはすぐに夕飯にできるようテーブルを拭いて箸を用意し、お茶の準備までしてある。
なんてできる子だろう。


「すぐ温め・・・あっ、もう温めてあるんですね」


僕から袋を受け取ったアコは、何故か少し残念そうだった。


「まあ、コンビニだからね。
箸も付いてるから、いつものはいらないよ」

「そうですか・・・」


テーブルにコンビニの袋を置き、アコは出していた箸を寂しそうに片付ける。
スーパーの弁当なら箸は必要なんだけどな。
コンビニは店員が勝手に入れてくれるが、よく行くスーパーはセルフサービスだからいつも取り忘れるのだ。
いつものようにソファに座り、僕はコンビニ袋の中身を取り出す。
もう若干冷めており、それほど熱くはない。
結局僕が選んだのは、宇宙人が勧めてくれた大盛のパスタだった。
それを目の前のテーブルに置き、割り箸を割る。
普通フォークなのではないだろうか、と思ったが、まあ箸でも食べられないわけじゃないし。
寧ろ僕的には箸の方が使いやすかったりする。
いざ食べようと箸を突っ込んだ所で、僕は宇宙人が和室の前で立ち止まったままなのに気が付いた。


「どうした?
こっち来て食べたら?」


そう言えば、彼女が持っている袋の中には僕のお茶も入っている。


「あの、いえ・・・
いや、これが布団ですか。
思っていたよりも・・・気になりますね」


どうやら彼女はすっかり布団に気を取られてしまったようだ。
無理もない、高級布団なのだから。
ここからでもわかる、柔らかなあの膨らみは誰しも顔を埋めたくなってしまうまさに高級品なのだ。


「先に転がってみる?」


すっかり気を良くした僕は、宇宙人に提案した。


「いいのですか?」

「もちろん、もちろん。
そのためにアコが敷いたんだ。ちょっと転がってみろよ」

「それでは、失礼します」


宇宙人は何の迷いもなく布団の縁に膝をつき、そのまま布団に倒れ込んだ。
コンビニの袋を持ったまま。


「ちょっ!?
袋、袋!」


僕は慌てて立ち上がり、袋を宇宙人の手から取り上げる。
ペットボトルは良いとして、中にはサラダパスタも入っているのだ。
そう簡単に蓋が開くことはないだろうが、そんなに頑丈でもない。
中身が漏れたりしたら惨事である。

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