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連続小説

知らない方がいい

ラブドールというものはどうしても人に言いにくい趣味というか、言うような事でもないというか、そういう部分がある。
だから周りに僕のようにラブドールを所有している者がいるなんて、知らなかった。
知ったからと言ってどうということもないのだが、同じ趣味の人間が沢山いるというのはなんだか嬉しい。
しかし、それだけの数の装置を仕掛けてあるというのに変異したのがアコだけというのが気になる。


「その、他のラブドールはどうして変異しないんだろう」

「それはまだ調査中です」

「うちに最初に装置を仕掛けたとか?」

「いえ、ここは12番目です。
と言っても、1番目に仕掛けた場所とほんの数時間の差ですが」


12番目でほんの数時間差なんて、どんな速度で仕掛けたのだろう。
50以上もあるあんな小さな装置を一人で、しかも見つからない様に家電やら家具やらに仕込んで仕掛けるなんて、どう考えても1件に対して数時間は掛かる。
それを12件で数時間だというのだから、おそらく30件あっても1日で終わる仕事という事だ。
もしかしたら装置を放つだけで自動的に動いていい感じの場所に勝手にセッティングされるとか、そういう仕組みなのかもしれない。
きっとそうだ。
どうやって仕掛けたのか彼女に聞いてみても良かったのだが、これ以上脱線が過ぎると目的を見失う恐れがあるのでやめた。


「他のドールはこれから変異するのか?」

「そうですね」


宇宙人は頷いた後、少し間を置いて続ける。


「すべてのドールが変異できるとは言えませんが、おそらく半分は何らかの変化が見られるはずです。
ここのドールに反応が見られた際に確認したところ、他も細胞ができつつあることは確認できましたし一部は順調に増えていますので近く動き出すのではないかと思っています。
ただ」

「ただ?」

「すべての対象に自意識が芽生えるわけではないので、身体的に変異が成功しても自立しない可能性もあります。
物体を生物に作り替えるということは、とても、難しいことですので」


当たり前のようにやっているのかと思っていたが、そうでもないらしい。
確かに、完璧だったら実験なんてしないのだろう。
勝手に大切なラブドールで実験をされて、失敗しましたなんて迷惑な話だ。


「失敗したラブドールはどうするんだ?」

「そうですね・・・
専用の薬でそれ以上細胞が増殖しないようにして、凝固させます。
そうすれば元の状態と変わりませんので」


細胞が死んでどろどろになってしまうわけではないとわかり、僕はほっとする。
実験のことがばれたら騒ぎになるだろうから、宇宙人だってその辺は慎重なのだろう。
勝手に弄られるというのは遺憾だが、僕のように彼女に対面しない限りそれを知ることはないのだ。
知らなければ何をされてもいいというわけではないが、知らない方がいいというのは有ると、僕は思う。
だって、最初から最後まで知らなければそれはその人にとってないのと同じだからだ。

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