さよならアコ

それでいいのだろうか

もっと見ていたい気もしたが、これ以上見ていると変な気を起こしてしまいそうだった僕はわざとらしく咳ばらいをひとつして


「電気消すぞ」


と、アコを先に寝かせ、電気の紐を引っ張った。
明かりが消えると明るさに慣れた視界にはただ暗闇しか映らなくなってしまう。
僕はアコにぶつからないよう、慎重に布団に体を滑り込ませた。
僕らは並んで布団に横になった。
シングルサイズの布団は二人が並んで寝るには小さい。
アコが動かなかったときはそんなに狭さを意識したことはなかったが、意思が在るとなると近さや寝相などいろいろなことを考えてしまう。
人形相手に何をそんなに緊張しているんだとも思うが、相手はもう人形というには女の子過ぎるのだ。
今も肩が微妙に触れているため、気が気ではない。
先ほどのTシャツの様子のせいで、余計に意識してしまう。
僕はがちがちに緊張した状態で、天井を見つめていた。
横を向きたいとも思うが、もし目が合ってしまったらどうにも気まずい。
そんな僕の横で、アコがもぞもぞと動き始めた。
なんだろう、やはり狭かったのだろうか。僕は心配になる。


「ご主人様、もっとくっついてもいいですか?」


耳元でアコが囁いた。
唇が動くたび吐かれた息が耳をくすぐる。
僕は全身に鳥肌が立つぞわぞわした感覚を感じながら、おう、いいぞと答えた。


「ありがとうございますっ」


僕の答えを聞いたアコは弾んだ声で礼を言うと、僕の左腕に抱き着くように自分の腕を絡め、体を寄せた。
自分の心臓が緊張で早くなるのがわかる。
男ならこういうときもっとどっしりと構えていなければいけないと思うし、そうありたいのだが現実はそうもいかないようだ。


「ふふっ、ご主人様あったかい」


満足げに笑いながら、アコは顔をすり寄せた。
僕はふと不安になった。
明日になったら、アコは元に戻ってしまうのだろうか。
余裕ありげに今日はアコを抱かなかったが、それでいいのだろうか。
もし明日アコが元に戻ってしまったら、僕は後悔するだろう。
だが、どうだろう。
アコは元々普通のラブドールなのだから、動かなくなったとしてもそれはアコなのだ。
確かに動いて、笑って、反応が返ってくるのは嬉しいがそうじゃなくてもアコはアコだろう。

僕は腕に絡まっているアコの髪を梳くように撫でた。
アコの髪に指を滑らせていると、緊張が解けてだんだんとまどろんでいく。
その中で僕は、アコに言った。


「明日は土曜だし、どこか行こうか」


明日の保障はないが、もし元に戻ってしまってもいい。
アコともっとこういう温かくて幸せなことがしたい。
そう、なんというか、恋人のように。
そう思ったのだ。

僕はそのまま、アコの返事を待たず眠りに落ちた。

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