さよならアコ

そうですけど

僕が通常の状態であれば、この女は電波さんであると断定していただろう。
というか、今もほんのりそんな気もしている。
変わっていることは明白だった。
奇抜な服装や常識はずれな言動から、それは自信を持って間違いないと言える。
しかしながら、ただ変わっていると言い捨てるには何かそれ以上のものがあるような気がして、お茶の件やこの光の環を見る前から引っかかるものがあったのも確かだ。
今、それは違和感から確信に変わった。
僕はごくりと、唾を飲む。
僕の予想が正しければこの女はアレだ。
もしそうだとしたら、それを知ってしまった僕はどうにかされてしまうかもしれない。
だがしかし、僕の好奇心はそれを確認すべきだと言っている。
何故だか僕にはその権利がある気がしたのだ。
彼女の存在は僕、いや、アコと僕に大きな関係があると僕の直感が言っていた。
彼女がアレだとしたら。
彼女が突然現れ、まるで僕らのことを知っているようだったのも説明が付くのだ。
緊張が伝わったのか、アコが心配そうな眼差しで僕を見つめている。
僕は心配しないで、という意味を込めて小さく頷いた。
そして息を吸って、女を見据える。


「あんた、宇宙人だろ」


声が震えた。
肌を汗が伝う。これから僕はどうなってしまうのだろうか。
映画なんかでよく観る宇宙人の正体を知ってしまった者の末路はいつも悲惨なものだ。
例えば記憶を消されたり、あるいはどこかに連れ去られたり、最悪頭からぱっくりなんてこともあり得ない話ではない。
真相を知るにはリスクが伴うものである。
女の変化に僕は細心の注意を払った。
擬態が解けて獰猛な本来の姿を見せるかもしれないし、奇抜な色をした髪が実は触手で僕の胸を貫こうとするかもしれない。
もしそうなったら僕のようなひ弱な普通の人間にはなす術もないが、せめて少しでも時間を稼ぎアコを逃がしてやりたかった。
しかし僕の不安は徒労に終わる。
微妙な間を置いて、女が先ほどと同じように小首を傾げた。


「そうですけど」


彼女はやはり表情を変えぬまま、あっけからんとそう言った。
拍子抜けした僕は「あ、はい」とそのままそこに座り込む。
どっと疲れてしまい、怒る気力すらなかった。
僕は緊張でからからになった喉に、もうぬるくなったお茶を流し込む。
それを見ていた女はアコにお茶のおかわりを要求した。


「それで、その宇宙人さんは何故こんなところに?」


お茶を飲んで少し気分が落ち着いた僕は会話を切り出した。
女の様子からして、今すぐ僕をどうこうするようには思えない。
そもそも、この女は動けなくなったアコと僕を助けてくれたのだ。
そして、そうだ。
お茶の件でうっかりスルーしてしまったが、こいつは何かを、アコがこうなってしまったことに関する何かを知っているのだ。

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