連続小説

助け船

そこから少し間があった。
宇宙人は声を掛けるアコをいつもの無の表情で何も言わずじっと見つめた。
何も言わないのは怒っているからだろうか。
怒っているからって黙るのはどうだろう。
痛かったなら痛かったと言えばいいし、大丈夫なら大丈夫と言えばいいのではないだろうか。
もしかして、怒りのあまりまたアコを無視することにしたとか。
一緒に暮らす条件の一つとしてアコを無視しない様にと言ったばかりなのに、この態度はもしかしたらもう一緒に暮らすのをやめるとか言い出すかもしれない。
それはアコが責任を感じてしまいそうだ。
主人として、ここは助け船のひとつでも出した方がいいだろう。
だが何を言ったらいいだろう。
アコをフォローするのも何か違うし、宇宙人を心配するのも責任を感じているアコを責めるような感じになってしまうかもしれない。
そんなことを思っていたら、宇宙人が行き場を失くし宙を漂うアコの手をすっと抑えた。


「すみません、言っている意味がわかりません。
鼻が何か?」


小首を傾げる宇宙人。
僕とアコはぽかんと口を開けた。
明らかに宇宙人の鼻は赤くなっているのに、もしかして、彼女には痛覚がないのか?
あの身体だから、それはあり得るかもしれない。
僕はじっと彼女の鼻をみた。
よく見てみるとほんのりと赤くなっているだけではなく、押し潰されたように鼻の頭が平たくなり微かに右に歪んでいた。
これは赤みがあまりないのが奇跡、結構な重症そうだが。


「たぶん、さっきアコが手をこうした時に鼻に手が当たったと思うんだけど。
鼻、赤く・・・なってる、うん」


僕は再現するため両手を左右に広げて見せた。
敢えて鼻の歪みの事は言わない。
もしかしたら元々そうだったかもしれないし、もしアコが気付いていないなら気付かないままの方がいいと思う。


「鼻ですか」


宇宙人は僕に言われ、自分の鼻に触れた。
軽く擦ったり摘んだりすると、それに合わせて彼女の鼻がぐにぐにと動く。
その動きは僕らのそれとは違った。
彼女が鼻を弄るたび、指の形に合わせて鼻の形が変わるのだが自然に元には戻らず、まるで粘土のようだった。


「私のせいで宇宙人さんの鼻が!」


その様子を見ていたアコが顔を手で覆った。
アコはさっきのアコの手で押されたせいで宇宙人の鼻がこうなってしまったと思ったようだ。
確かに、宇宙人の鼻の頭が平たくなってしまったのや赤くなってしまったのはアコのせいかもしれない。
だがそれだけであんな風にはなるまい。
そもそも、根本的な部分に問題があるように思えた。
手が当たったくらいで鼻が粘土になってしまうわけがないのだから。
もしそんな能力がアコにあったら、僕は今頃体中が凸凹になっているだろう。

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