さよならアコ

わかめ

僕は自炊というものをあまり、というかほとんどしない。
食べるのはわりと好きな方だが作る方はからきしで、必要に迫られればやらないこともないのだろうが気ままな一人暮らしである、どうしてもという必要があったことは今までに一度もないのだ。
それでも月末の給料日前になると財布が軽くなるため腹を満たす最低限、米とインスタント味噌汁、お湯を注ぐだけのスープ類は多少置いてあった。
目の前に置かれている夕食は僕の月末の定番、言わば非常食だ。

こうなってしまうのも仕方がないのだろう。
用意しようにも何もないのだから、あるもので賄った結果なのだ。

外に買いに行こうにもアコには金がなく、まして裸エプロンである。
そもそも。
部屋の片付けは驚くほど完璧にこなしてくれたが、彼女はドールなのだ。
買い物をするという概念があるかどうかも不明だ。

文句を言う筋合いは何処にもなく、現実を受け入れられず半パニックになりながら帰宅した僕にとっては米を炊いておいてくれただけでもありがたいことじゃないか。


「用意してくれただけでもうれしいよ」


僕は素直に彼女に礼を言い、箸を手に取った。

温かい白飯を掻っ込み器が赤いため正体がわからないがとりあえずわかめだけは目視で確認できる汁を恐る恐る口に運ぶ。
毎月消化しきるだけの非常食しか置いていないため古くなっているとか腐っているといった心配はないとは思うが内容物の詳細が知れないものを口に運ぶというのはなかなかに勇気が要った。

しかしそれに手を付けないという選択肢は僕にはない。

何故なら僕をじっと見つめ感想を待っていると言わんばかりに瞳を輝かせるアコを前にしているからである。

しっかりゴミを分別しきちんと部屋の整理整頓を行ってくれたアコが用意してくれたものだ。
そんなおかしなものは入っていないだろうし、きちんと食べられるもので作られているのだろう。

僕はアコを信じ、口の中の汁を舌で転がした。
汁を舌で転がすというのもおかしな話だが、味を確認する動作としては相応しいような気もする。

馴染みある風味と迫りくる塩味、舌に薄っぺらいわかめが貼りつき多少の不快感がある。
それはコンソメ味だった。
わかめだけが入ったコンソメスープというのもなかなか珍しいと思う。

そういえば先週買い置きの食品を買いにスーパーに行った際、何やら外国産のインスタントスープのアソートパックを買ったのだ。
恐らくそれの中に入っていたのだろう。
ドライの野菜やら卵が入っているものが多いが、数が多いわりに安かっただけのことはある、これは何ともシンプルにわかめのみだった。

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