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連続小説

わからないんですか

僕は再び口を濯いで口も気分もすっきりさせ、若干ゲロ臭漂う洗面所にアコを一人残して居間へ戻る。
先にソファに戻った宇宙人はテーブルに置かれたままの湯呑をじっと見つめ無言でおかわりを要求していた。
お茶が気に入ったのだろうか、それとも喉が渇く体質なのだろうか。
それを無視して向かいに座ると痺れを切らしたのか彼女は視線の先に居る湯呑を無造作に掴み自ら立ち上がり台所に向かい、置きっぱなしにされていた急須を傾ける。
しかしそこにはもうお茶は入っておらず、淹れ方がわからないのか仕方ない様子で蛇口を捻り湯呑にその水を注いで戻ってきた。
彼女には少しずつ飲むという習慣がないのかもしれない。
再びソファに腰かけたった今入れたばかりの水を一気に呷ると元に置かれていた位置にきっちり湯呑を戻し、ようやく僕の方を向いた。


「さて、先ほどの話の続きですが」


先に話を切り出したのは彼女の方だった。
僕はごくりと喉を鳴らす。


「先ほども言いましたが、彼女の身体は何も問題ありません。
彼女ほど身体の変異が進んでいればあの程度の時間であれば外気に触れても影響はないのです。
私の場合はいろいろと、まだ完全に身体ができていない状態で外出したり実験を繰り返したりと無理を重ねていますので」


実験と言うのが気になるが僕はそこには触れずとりあえずなるほどと頷いた。
いくら取り換えがきく身体とはいえ、あんな状態になるまで痛めつけるのはクレイジーに他ならない。
そもそも、なぜあんな状態になってもまだその身体を使い続けているのだろう。
取り換えがきくのであれば早々に新しいものに取り換えた方がいいのではないだろうか。
もしかしてその状態で居ることもまた一つの実験なのだろうか。
彼女は痛覚や感情なんか持ち合わせていないのかもしれない、てか、たぶんそうだからごく普通の人間である僕には到底理解のできないことだろう。


「どのくらいの時間外に出て居たら壊れ始めるんだ?」


恐らく彼女の実験ですでに答えは出ているだろうという確信があった。
僕が一番初めに思いつくような疑問なのだ。
しかし彼女の答えは僕が思っていたのとは違うものだった。


「それは、わかりません」


相変わらずの無表情で彼女はきっぱりと言った。
想定外の言葉に僕はきょとんとする。
マッドなサイエンティストと思われる彼女からわからないという答えが飛び出すなんて、思いもしなかったのだ。
僕が考えるような問いなど彼女であればとうの昔に答えを出し、さらに別のパターンも試しているだろうと思っていた。


「え、わからないんですか」


自分が思っているより間抜けな声で、不意を突かれた僕から漏れたのはそんな言葉だった。

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