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連続小説

私も行きます

開けた押入れの、埃っぽいような湿気っぽいような独特の香りが鼻先を掠めた所で僕は和室を出た。
出ると言っても開けっ放しだから、一歩踏み出しただけだけれど。
和室を宇宙人の私室にするなら、これからはきちんと戸を閉じておいた方がいいだろうか。
私物はないと言っていたし彼女はあまり気にしないだろうが、あれでも一応女の子なのだろうし、丸見えというのはこちらも気を使ってしまう。
とはいえ和室からすべての私物を移動させるのは、スペース的にも無理がある。
本棚とか机、大きいものはそのままになるだろう。
これからはそれらに用があるときはいちいち断りを入れないといけないのだろうか。
あまり深く考えていなかったが、改めて考えると自分の家の中に他人のスペースがあるというのは少し面倒かもしれない。
僕は相変わらずテレビを観ている宇宙人に目をやった。
テレビの内容はアニメから夕方のニュース番組に変わっているが、変わらぬ様子で食い入るように画面を見つめている。
そんなにテレビが面白いのだろうか。


「終わりましたか?」


視線に気付いた宇宙人が顔をこちらに向けた。
ちょっと目をやっただけのつもりが、まじまじと見つめてしまったようだ。


「一応、スペースはできた。
あとは布団を敷くだけ。
そっちはアコがやってくれるっていうから、僕は晩飯を買いに行こうかと」

「どこへ行くんです?」

「近くのコンビニ」


僕が答えると、彼女はテレビを消して立ち上がった。


「私も行きます」

「えっ」


予想していなかった言葉に、僕は思わず一歩下がった。
そう言えばアコと違い、こいつは出歩くことができるのだ。


「いけませんか?」


僕の反応が良くなかったのだろう、宇宙人は首を傾げる。
悪いという事は無いが、しかしこいつを連れて歩くというのは些か勇気が要るのだ。
なにせこの風貌だ。
この辺は都会とはいえ比較的大人しめの住宅街である。
ファッション街やら繁華街ならともかく、彼女の七色の長い髪はあまりにも人目を引くだろう。
彼女が気にしないとしても、僕は注目を集めるのは好ましくないのだ。
なんというか、人の視線という物は痛いから。
しかし、そんな理由で断るのもどうだろうか。
たかがコンビニとはいえ、行きたいと言っているのだから連れて行ってあげればいいのではないだろうか。
ちょっとそこまでじゃないか。


「いや、大丈夫。
いいよ、いこう」


半ば折れるという感じで僕がそう言うと、宇宙人はすっと僕の横をすり抜けこちらには目もくれず玄関の方へと歩み始めた。
なんという淡泊、礼のひとつもないなんて。
よっぽどコンビニに行きたかったのだろうか。
どんどん進んでいく彼女の後を追い、僕も玄関へ向かった。

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