さよならアコ

夢じゃなかったんだっ

アコが用意してくれた朝ごはんはやや大きめの塩握り2つと熱い味噌汁だった。
朝からなかなかヘビーだったがせっかくアコが用意してくれたものを残すわけにもいかず、半ば味噌汁で強引に流し込む形で胃に収めた。


「食材を買わないとな」


重たい腹を擦りながら、僕はアコに言った。
このままでは毎食白飯を食わされる羽目になる。
それはまずい。汁があるとはいえ、やはりおかずがないとなかなか進むものではないのだ。


「そうですね、お肉とかお野菜とかがあると助かります。
ご主人様にもっといろいろなお料理を作ってあげられますし!」


アコが嬉しそうに体を揺らした。
料理が好きなのだろうか。
もしかしたらこういう事態になって芽生えた感情なのかもしれないが、ドールであるアコに趣味があることはなんだか嬉しく思った。


「食材はやっぱスーパーかな。
僕は何が必要かわかんないからさ、アコがちゃんと必要なものを選んでくれよな。
あとあれだ、どこかでアコのパジャマも買おう。
いつまでも俺のTシャツってわけにもいかないからな。
さ、準備してさっさと出かけよう」


僕はそう言って、ソファから立ち上がった。
アコは口を開けたまま、そんな僕をじっと見つめていた。


「おーい、アコ?どうした?」


僕はアコの額を突く。
アコは少し後ろに仰け反って、すぐに元の状態に戻ると胸の前で手を組み目と口をぎゅっと閉じた。


「夢じゃ、なかったんだ・・・っ」


薄く開いた口から、感嘆の声が漏れた。


「お出かけ、ですねっ」


噛みしめるように彼女が言う。


「そうだよ。
だからほら、着替えないとな」


あまりの可愛さに抱きしめたくなる衝動をぐっと抑え、アコの手を取った。
深く考えていなかったが、長年ラブドールとして家の中で過ごしてきたアコにとって外の世界は憧れなのかもしれない。
特別な場所に行こうというわけでもないのにえらく感動している彼女を、今日は無理でもそのうちいろいろなところに連れて行ってあげたいと僕は思った。
きっと、とても喜んでくれるだろうから。


「お出かけは何を着れば良いのでしょうかっ」


クローゼットを物色しながら、浮付いた調子で彼女は僕を見た。
アコが好きなのでいいぞと言いたいところだが、その手にはフリッフリのメイド服とガーターベルトと大きく開いた胸元がポイントのかなり際どいミニスカナース服がしっかりと掴まれており、僕は言葉を飲み込む。
確かにそれらは僕のお気に入りでありお世話になった回数も多いとびきりの逸品なのだが、外に出るにはいかがなものだろうか。
まだ午前中であり、出かける場所も仮装パーティではなく近所のショッピングセンターとスーパーなのだ。
TPOを弁えたものを選択する必要があるだろう。


「これなんかいいんじゃないかな」


僕はクローゼットの隅から、まだ一度も着せたことがないニットのワンピースを取り出してアコに手渡した。

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