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連続小説

善は急げ

「それじゃあ、さっそく布団を敷こうか」


僕は手を叩いてアコと宇宙人に動き始めるよう促した。
善は急げ、だ。


「え!?もうですか?
寝る時間には早いですよ」


アコが目を丸くして僕を見る。


「そうですね。
まだ睡眠は必要ないですが」


宇宙人は相変わらず淡々としているが、僕の提案には疑問があるようだ。


「そうかもしれないけどさ、取りあえず宇宙人にも布団を見てもらいたいしさ。
それにどうせ布団を敷くスペースを開けるんだろ?
敷いて確認すれば間違いがないじゃないか。
敷くときにやっぱりスペースが足りないなんて、面倒くさいよ。
あとほら、今ついでに敷いておけば寝る時わざわざ眠い中敷かなくていいじゃない、すぐ寝られるじゃない」


僕は口早に説明する。
実を言うと、僕が早く布団を出したいのには理由があるのだ。
僕が使っている布団は今でこそ万年床のぺったんこだが、かなり良いものである。
ちなみに良いものというのは高価という意味だ。
昔睡眠を疎かにした結果身体を壊した僕は、睡眠がいかに大切かを悟り、当時はまだ多くなかったボーナスで祖母に勧められた高級布団を購入したのだ。
それも二組。
祖母が懇意にしている布団屋が、今ならもう一組を半額にしてくれると言ったせいではない。
それも確かにきっかけではあるのだが、決め手は祖母の予備の布団があると便利という言葉だった。
僕は祖母にそう言われた時、確かに、と思ったのだ。
僕の実家は遠方にあるのだが、1年に1度ほど母が僕に会いに来る。
と言っても顔を見る程度で、母は自分の行きたい場所に行き買い物をし帰っていくのだが、その度母は寝る場所がないからとわざわざホテルに泊まっていたのだ。
母は布団でしか眠れない人間である。
だからといって、僕の布団を使うのは匂いが気になるとか万年床だからカビがどうとか理由を付けて使うのを嫌がった。
まあ、その気持ちはわからなくもない。
僕も家族とはいえ母や父の普段使っている布団を使うのはなんだか気持ち悪いからだ。
そんなわけで、もう一組布団があれば母が来た際にうちに泊まってもらえると考えたのだ。
わざわざホテルに泊まるのは移動で疲れるだろうし、お金もかかるしいいだろうと思っていた。
そして布団を購入し、僕は母に言ったのだ。
「母さんの分の布団を買ったから、今度からうちに泊まれるよ」と。
事前に母には言わなかった。
所謂サプライズだったのだ。
きっと喜んでもらえるだろうと思っていた僕だったのだが、母の答えは予想に反し冷たいものだった。
どうにも母にとって、僕に会うという事の方がおまけだったのだ。
母の答えはこうだ。


「あらやだ、そんな気を回さなくていいのに。
あんたに会いに行くのは母さんにとって休暇なのよ」


と。

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